003:背中

「さ、行くよ、春華」
手掛かりを見付け、勘太郎は春華を伴ってその目的地へと向かう。
とても歩いて行ける距離ではないため、春華に乗せてもらって飛んでいくのだ。



雲一つない青い空の下を、黒翼の羽根を大きく羽ばたかせて飛ぶ。
きっと、地上から見たら素晴らしく美しい姿だと思う。
もっとも、その場合は上に乗ってる自分は余計なオプションでしかないけれど。

だけど、勘太郎がいるのは特等席。
下からの眺めは誰でも見られるけれど、こうしてその舞う翼を間近で見られるのは勘太郎だけだ。
ヨーコは春華に乗せてもらう機会などないし、スギノは自らの翼で自由に飛べる。
だから、春華の背中に乗せてもらって飛べるのは勘太郎だけなのだ。

ほんのささやかな特権。
だけど、何よりも大切な特権だ。
この特権を侵すものを、きっと勘太郎は許さないだろう。


勘太郎は、視線を落として春華の背中を見つめる。
広く、大きい背中。
小柄な勘太郎とは比べ物にならないくらい、その背中は頼もしくて。
その印象と普段の単純な性格とのギャップに、勘太郎はクスリと笑った。

「……何だ」
勘太郎の笑い声が聞こえたのか、春華はチラリと勘太郎の方に振り向く。
「何でもないよ」
そうとだけ言って、勘太郎は春華の背中の上にゴロリと転がった。
「おい、ちゃんと座ってねえと落ちるぞ」
「平気だよ。……もし落ちたら、春華、助けてくれるでしょ?」
「お前なぁ……」
呆れたようにため息をつく春華をよそに、勘太郎は相変わらずクスクス笑っている。

「……落ちたら、そのまま落としてくからな」
「えー、酷いなぁ」
そう言いながらも、勘太郎の声色は笑ったままだ。
春華が、絶対にそんな事はしないと知っているから。
現に、勘太郎が背中の上に寝転がってから、春華は少しだが飛ぶ速度を落としている。
バランスを崩さないように、慎重に慎重に飛んでくれている。

このまま目的地に着かなければいいのに、とふと思ったりする。
ずっとこうやって春華の背中に乗って飛んでいたい。
洋服越しに伝わる体温が心地良くて、勘太郎はゆっくり目を閉じる。



「大好きだよ、春華」
返事はないだろうと思いながら、独り言のように呟く。
案の定春華は無言だったけれど、不機嫌そうな顔で照れているのが目に浮かぶようで、勘太郎は小さく笑った。



何も言ってくれなくて構わない。
笑いかけてくれなくてもいい。


ただ、この背中だけは独り占めさせて。







最後のポエム調が書いてて結構恥ずかしいのですが(笑)
私は勘ちゃんを乗せて飛ぶ春華の姿が好きです。
いいですね! 広い背中!
春華の背中、すんごく素敵だと思います。いいな、勘太郎、あの背中に乗れて。
でも、原作で出てきた、『片腕で勘太郎を抱えて飛ぶ春華』も実は好きです(笑)
だってあの体勢、イイと思いませんか! トキメきませんか!(←訊くなよ)

2003年10月4日UP

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