「じゃじゃーん!」
そんな声と共に麻衣が取り出したものに、綾子が怪訝な顔でそれを見つめる。
「何それ、ぬいぐるみ?」
「うん!」
「で? そのぬいぐるみがどうかしたのか? ……って、ん〜?」
横からぼーさんが口を挟むが、何かに気付いたのか少し身体を乗り出してぬいぐるみをじっと見つめている。
「おい……そのぬいぐるみ、誰かに似てないか?」
そのぼーさんのセリフに、麻衣の目がキラリと光った。
「ぼーさん、気付いてくれた!? そーなんだー、誰だと思う?」
ずずいっとぬいぐるみを前に突き出す麻衣に、横から見ていたジョンが口を開く。
「……もしかして、松崎さんと違いますやろか」
「ピーンポーン! ジョン、大正解〜!」
「あたしぃ!? ちょっと冗談じゃないわよ、これのどこがあたしなのよ!」
示された答えに、綾子がぬいぐるみを奪い取って抗議する。
「あっははははは! 似てる似てる、この化粧濃そうなトコとかな!」
ぬいぐるみのモデルが綾子だと分かった途端、ぼーさんは机をバンバン叩きながらウケまくっている。
ゴス。
「誰が、何ですって?」
「………………申し訳ありませんデシタ………………・」
鈍い音と共に机に突っ伏しながら、ぼーさんはかろうじて呟いた。
「で、でも麻衣さん、このぬいぐるみほんまによう出来てます。凄いです」
撃沈されたぼーさんを横目に汗を流しながら、ジョンは麻衣に話題を振る。
「えへへ〜、ありがと、ジョン」
ちょっと照れたように、麻衣は右手を頭にやる。
「でも、これだけじゃないんだー。ほら!」
そう言って麻衣が指差した先には、幾つものぬいぐるみが並んでいた。
「へー、こりゃまたたくさん作ったな」
ソファから立ち上がってそのぬいぐるみが置いてある棚の前に立ったぼーさんが、感心したように言う。
それを受けて、麻衣は嬉しそうにそのぬいぐるみ達について解説を始めた。
「えっとね、左からぼーさんでしょ、ジョン、真砂子、安原さん、リンさん、んでここに持ってるのが綾子」
「ジョンは金髪だから一発で分かるな。で、これがリンかよ! うっわ、怖ぇー!」
「ほんとー! ちょっと、睨んでるわよ、これー! 呪われたらどうすんのよ!」
好き勝手な事を言いながら、ぼーさんも綾子も顔は思いきり笑っている。
ようやく和やかなムードが流れかけたその時、その空気を一瞬にして冷やす声が聞こえた。
「……ここは喫茶店ではないと、何回言えば分かって頂けるんですか?」
振り向くと、氷点下の空気を纏わりつかせたナルが睨んでいる。
「よー、ナルちゃん。ま、そんな堅いコト言うなって」
「……仕事の邪魔だと言ってるんだが。……麻衣、お茶」
言うだけ言って、さっさと所長室に引っ込んでしまったナルに、慌てて麻衣はお茶を淹れるべく立ち上がる。
「しゃーねえ、んじゃ俺らもこの辺でお開きにするか。ナルちゃんに呪われたらたまらんしな」
そのぼーさんの言葉に綾子とジョンが同意し、立ち上がる。
そして事務所を出る前に、ジョンが振り返って麻衣に声をかけた。
「麻衣さん、あのぬいぐるみですけど、渋谷さんの分はあれへんのですか?」
「だって、ナルのぬいぐるみなんて勝手に作ったら、それこそ呪われそうだもん」
その麻衣の言葉に、他の3人が一斉に吹き出す。
それで納得してしまったのか、挨拶だけ残して3人は帰ってしまった。
麻衣はナルに持っていくお茶を淹れながら、ポツリと呟いた。
「ナルのぬいぐるみは、あたしだけが見るんだもん」
お茶に映った顔が嬉しそうに緩んでるのが、自分でも分かる。
──ごめんね、ぼーさん達。練習台にしちゃって。
所長室にお茶を運ぼうとぬいぐるみの並ぶ棚の前を通りながら、麻衣は心の中でこっそり謝った。
初の「ゴーストハント」です。マイナーですみません。
思えば、マトモに恋する乙女を書いたのは初めてかもしれない(笑)
ナルのぬいぐるみ……さぞや目付きの悪いぬいぐるみでしょうねぇ……。
置いてて和むどころか、夢にうなされそうだ……。
真砂子や安原さんも出したかったんですが、収拾つかなくなりそうで止めました。
ついでに、ジョンの喋りについては余り深く追求しないで下さいませ……。