091:初めての日

白く染め上げられた世界を、三蔵は悟空を伴って歩いていた。
1歩進むごとに、積もった雪に2人分の足跡が増えていく。

発端は八戒と悟浄が、三蔵に半ば強引に取りつけた約束だ。
日付を指定して、この日に自分達の家に遊びに来いと。
三蔵としては面倒くさいことこの上ないのだが、悟空がやたらと楽しみにしているので行かざるを得なくなった。

八戒に促されて悟浄宅に入った三蔵は、目の前の光景に眉間の皺を深くする。
「……何だ、これは」
「何って、見ての通りパーティーの準備です」
三蔵に睨みつけられた八戒は、その反応は予想通りだったのか全く動じることもなく返事をする。
「何のパーティーだ」
「もちろん、クリスマスの、ですよ」
眩いばかりの笑顔で八戒は当然のように言い切る。
「本当は、昨日のイブの方が良かったんでしょうが、ちょっと都合がつきませんで」
苦笑しながら、八戒は部屋の中へと歩いていく。

「くだらねえな。大体、俺は仏教徒だ。クリスマスなんざ関係ねえ」
「そう言うと思ってましたけど、まあそんな細かい事はいいじゃないですか」
八戒に続くようにして、悟空と悟浄が喋り出した。
「そうだよ、三蔵。楽しそうだし、やろうよ」
「そうそう。第一、もう準備しちまってんだからよ」
それでも三蔵の気が進まない様子に、悟空が更に言葉を継いだ。
「なあ、料理もすっげえ美味そうだし、いいじゃんか」
法衣の袖をくいくいと引っ張りながら悟空に覗き込まれて、三蔵は一瞬言葉に詰まったような表情を見せ、諦めたように目を閉じた。
「…………酒もあるんだろうな」
その問いには八戒が答えた。
「もちろんです。各種取り揃えてますよ」
「なら、いいだろう。クリスマスでも何でも好きにしろ」
やっと三蔵から得た承諾の言葉に、悟空の表情がパッと明るくなる。
こうして、小さなクリスマスパーティーが始まった。

悟空は主に料理を、他の3人は主に酒を消費しながらパーティーは進んでいく。
「三蔵は、やっぱりクリスマスパーティーなんてした事ないんですか?」
八戒から投げかけられた質問に、三蔵は何を今更という風に答える。
「当たり前だろうが。寺院でそんなもんするか」
「あはは。それはそうですよねぇ。って事は……」
「何だ」
「今日が三蔵の『初めて』なんですねー」
「……嫌な言い方をするな……」
心底嫌そうな顔をしている三蔵を見て、少々酔い気味の悟浄がカラカラと笑っている。
「ってこたあアレだ、今日が三蔵サマのクリスマスバージ……」
そう言いかけたところで、銃声が2発ほど響き渡る。
「っぶねー! オイコラ、何で俺ん時だけ弾が飛んでくんだよ!?
「うるせえ、くだらねえ事言ってるからだろうが!」
更に数発発砲すると、三蔵はようやく気が済んだとばかりに再び酒の入ったグラスを傾け始めた。



パーティーというよりも酒宴と言った方が正しそうな宴が終わり、三蔵は何とか悟空を抱えて寺院に戻った。
いつの間に飲んでいたのか、悟空はすっかり酔い潰れて眠っている。
「ったく、バカ猿が……。ガキが酒なんぞ飲むからだ」
もっとも、こうなるまで止められなかった自分にも多分に責任はあるのだが。
悟空を寝室のベッドに寝かせると、三蔵はそのベッドの端に腰掛けた。
いつもより紅い顔で眠る悟空の髪を、ゆっくりと撫でてやる。
すると、眠っている悟空が嬉しそうな笑顔を浮かべた。
それに引き寄せられるように、三蔵は自らの顔を近付けていく。

軽く触れる程度の口付けをして、すぐに離れる。
「…………何考えてんだ、俺は」
まだ悟空にそういう事を求めてはいけないと分かっているのに。
初めて交わした口付けが、意識のない悟空へ、というのは些か卑怯な気がした。
素面のつもりでいたが、三蔵も少し酔ってしまっているのかもしれない。

三蔵は軽く頭を振ると、悟空に毛布を掛けてやる。
もう1度悟空の髪を撫でると、三蔵は立ち上がり、明かりを消してそっと部屋を出た。







初めてのクリスマスに、初めてのキス。……という事で書いたSSです。
眠ってる悟空にキスはいかんよ、三蔵様(笑)
タイトル見てもっと凄い事を想像なさった方には申し訳ありません。
ウチの三蔵様には、そこまでの度胸はまだありません。
短くまとめる事に拘るあまり、ちょっと端折り過ぎて話がそっけなくなってる気も…………。

2004年12月25日UP

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