094:もう一度

カーテン越しに差し込む朝日に、意識が浮かび上がる。
目覚めは最低だ。
それもこれも、あのDXのせいだ。
久し振りに見た夢の内容を思い出し、僕は眉を顰めた。



10年前の夢。
あの頃、ライナス以外には大して仲の良い友人もいなかった僕に出来た、初めての親友。
少なくとも、あの頃の僕は本気でそう思っていた。
DXが大好きで、会えなくなる事が悲しかった。
それでも、離れていても自分達の間の友情はなくならないと信じたかった。

それなのに、別れ際にDXから出た言葉は当時の僕をどん底に突き落とした。
まさか、女の子だと思われていたなんて。
周りから散々からかわれた事もだが、女の子だと思ってたからDXが優しかったのかと思うと、それがショックで仕方なかった。
DXは僕を友達だなんて思っていなかった。
そう突き付けられた事が辛くて、腹が立って、そして情けなかった。

そんな思いをしても、僕は何処かで期待していたのかDXの事を忘れたりはしなかった。
いつかもっと成長して、もう一度DXに会えたら。
そして、DXが僕の事を覚えていてくれたなら、全ての誤解を解いて、今度こそ友人としてやり直せるのかもしれないと思っていた。
今度こそ、あの頃は一方的な思い込みにしか過ぎなかった『親友』になれるんじゃないか。
そんな期待を抱いていた。

だから、アカデミーにDXが編入してくるという噂を聞いた時は気分が沸き立った。
今の僕は随分と背も伸びて、何処からどう見ても男にしか見えない。
今なら、あの頃のような馬鹿な誤解もなく、ちゃんと男同士として会える。
DXが僕を見たら、一体どんな顔をするだろう。
女の子だと思ってた子供時代を、落ち込んだりするだろうか。
それとも、男っぽくなった僕に驚きつつも、再会を喜んでくれるだろうか。


けれど、僕に満ちたそんなささやかな期待を、DXは見事に打ち砕いてくれた。
洗礼の後、DXの前に顔を見せた僕に対して、DXは何の反応も示さなかった。
ライナスが僕の名前を紹介しても、表情を変えなかった。
僕がじっとDXに視線を合わせてすら、何が何だか分からないという顔をしていた。



DXは、僕の事なんて全く覚えてくれていなかった。



悔しかった。
僕は10年間ずっと覚えていたのに。
DXにとっては僕なんてどうでもいい人間だったんだと、そう思った。
悔しくて悔しくて、腹が立って仕方がなかった。
どうして覚えていないんだ、と、半ば八つ当たり気味の怒りがどんどん湧き起こる。

それから、何かにつけてDXに突っかかった。
僕を思い出せ、という苛立ちと微かな期待のために。
もう一度だけ。
もう一度だけ、期待をしたかった。
僕に本当の名前を教えてくれたのは、決して気紛れじゃないと信じたかった。
DXが考えて考えて、そうして自力で僕の事を思い出してくれたら。
やっと思い出したのかと怒りながら、それでも全部許せる気がした。

自力で思い出してほしかったから、誰にも……ライナスにすらDXの事は話さなかった。
ライナスが誰かに話すとは思っていないけれど、どこで誰が聞いていないとも限らないし、そこからDXの耳に入ってしまったら元も子もない。

ここまで譲歩して、それでもDXが思い出さなかったら。
その時は、もう二度と許してなんてやるものか。
と同時に、そんな事にならなければいい、と考える自分もいる。
結局、最後の最後でDXを嫌いきれない自分が嫌になる。

でも、これは最後のチャンス。
これを逃せば『もう一度』はないからな。
呟いて、僕は窓の外を歩くDXを睨みつけた。







初ランドリオールSS。
なのに、何故DXやイオンではなくルーディーなのかというと、それはもう「好きだから」としか。
あの辺のエピソードで一気にルーディーが好きになりました。
そりゃー、男子の制服着てるのに女の子だと思われちゃ腹も立つよ(笑)

2005年12月28日UP

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