あぶらあげ


後楽園ホールの出入り口付近の一角。
そこに、思わず道行く人々が避けて通るほどの黒いオーラが漂っていた。
そのオーラの中心には、3人の女性。
三角形の状態で向かい合う形で、彼女達は睨み合っていた。

「今日は、菜々子が一歩さんを誘うんですっ!」
女子高校生特有の高い声に、落ち着いた声音の言葉が返る。
「あら、そんな事誰が決めたのかしら?」
余裕たっぷり、といった風に笑ったのは、無論飯村真理である。
しかし、菜々子も負けてはいない。
「私が決めました!」
「それに私が従わなきゃいけない理由はないわよね」
両者の間に飛び散る火花を眺めながら、久美は1人ため息をついた。

どうして、こうなってしまったのだろう。
この調子では、一歩が出てきても上手く誘えそうにない。
久美とて、今日は一歩と夕食を一緒にと思って来たのに。
しかし、こんな事で挫けてはいられない。
ただでさえ多いライバル。弱気になったら負けだ。

1人口論に参加していなかった久美に、2人の視線が向く。
「久美さんはぁ、誘う気はないんですよね?」
「さっきから何も言わないって事は、そうなんじゃない?」
決めつけられかけて、久美は慌てて否定した。
「待って下さい! 私だって、幕之内さんと食事するつもりなんですから!」
「え〜! 久美さんは今まで何度も行ってるでしょう!? 今日は遠慮して下さいよー!」
「な、何回とか関係ありません!」
「困ったわねぇ。私は取材なんだけど」
「取材なら、後日改めてジムを訪ねればいいじゃないですか」
「そうそう! そうですよ!」
久美の切り込みに、菜々子が便乗する。
「今日の試合についてのコメントを聞くんだから、当日の方が彼も答えやすいでしょう?」
「そうでしょうか? 幕之内さんなら、一晩置いた方が取材に対する心構えもしやすいんじゃないですか?」
「まるでマネージャーね」
「そんなつもりじゃありません!」
だんだんとヒートアップしてくる口論に、最早その一角は別空間のような雰囲気を醸し出している。

そんな中、菜々子の一歩センサーがホールから出てくる一歩を感知した。
「あー! 一歩さん!」
その叫びに、久美と真理も同時に振り向いた。

3人の視線に一遍に射られた一歩は、一瞬ビクッとしたものの、気を取り直して笑顔を向ける。
「久美さん。菜々子ちゃんに真理さんも。どうしたんですか?」
にっこりと笑う一歩に見蕩れかけた彼女達であるが、ハッと我に返ると一歩との食事を実現すべく口を開こうとした。


しかし、その時。


「幕之内」
一歩の更に背後からかけられた声によって、3人の言葉は宙に消える。
「……宮田くん!」
振り向いた一歩の頭に子犬の耳が見える気がするのは、果たして久美の気のせいなのだろうか。
宮田はというと、そんな一歩を気にするでもなく無表情を保っている。
「これからメシ食いに行くんだけど、お前も来るか?」
サラッと吐いたセリフに、一歩の返事は一瞬だった。

「行く!」

全力で即答すると、一歩は久美達に笑顔で手を振って宮田と歩き去ってしまった。

後に残された3人の胸には、共通の思いが生まれていた。

『打倒・宮田一郎』…………と。





ありがちなネタですみません。
とんびに油揚げをさらわれる……って事で、こんなタイトルにしました(笑)
ライバル、多いどころの騒ぎじゃないですね。
さて、これから宮田くん、彼女達に何をされるかな(笑)

2005年5月17日UP
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