「ミステリー」その後。
「つーかさあ、その袂、本当にどうなってんだよ」
唐突に言い出した悟浄に、三蔵は不機嫌そうな眼差しを向ける。
「何がだ」
「だってよ、どう考えたっておかしいだろ、その袂!」
「何処がおかしいってんだ」
「ハリセン6つやらマルボロ1カートンやら金冠やら、入んねえだろ、普通!?」
「何言ってやがる。現に入ってんじゃねえか」
「それがおかしいってんだよ!」
三蔵が余りに事も無げに言うので、悟浄は自分がおかしいのかと考えてしまいそうになる。
少々興奮気味の悟浄を宥めるように、八戒は悟浄と三蔵の間に入る。
「まあまあ、悟浄。それより三蔵、ちょっとお願いがあるんですが」
「何だ」
「僕、その袂の中からハリセン取り出してみたいんですが」
八戒のその申し出に、三蔵は眉を寄せ、悟空と悟浄はギョッとした顔を見せた。
「取り出すって…………お前がか?」
「はい。いけませんか?」
「…………まあ、いいだろう」
少しの間逡巡した三蔵であるが、1つため息をつくと仕方なさそうに許可を出した。
「は、八戒……。止めといた方がいいんじゃ……?」
以前、三蔵の袂の中を覗きかけた時の事を思い出したのか、悟空が恐る恐るといった感じで八戒を止めた。
そんな悟空に、八戒は安心させるように優しい笑顔を見せる。
「大丈夫ですよ、悟空」
「でも……」
心配そうに見る悟空の頭をポンポンと撫でた八戒は、打って変わって真剣な表情で三蔵(の袂)に向き合った。
「それじゃあ、失礼しますね」
「ああ」
三蔵が袂を差し出すのを待って、八戒はゆっくりと慎重に手を差し入れた。
ごそごそごそごそごそごそ………………。
しばらく中を探るような音だけが場を支配していたが、ピタリと八戒の動きが止まった。
「…………これは…………!!」
そのまま硬直している八戒に、悟空と悟浄は顔を見合わせる。
「八戒、どうしたんだよ!?」
「何か分かったのか!?」
2人が口々に叫ぶのを聞きながら、八戒が袂から手を抜くと、そこにはきちんと三蔵のハリセンが握られていた。
しかし、八戒はその手に持ったハリセンをじっと見つめたまま身動き1つしない。
「お、おい、八戒、何があったんだよ?」
悟浄が声をかけると、ようやく八戒は悟浄の方へと視線を向けた。
「……あのですね」
口を開いた八戒に、悟空と悟浄はごくりと唾を飲み込みながら注目した。
「…………いえ……僕の口からは、とても…………」
八戒はそれだけ言うと、スイッと目を逸らしてしまった。
「……って、何があったんだよ、八戒ー!?」
その疑問に答えてくれる人間はそこには存在せず、悟空の叫びだけが宿にこだましていた。
日記アテレコネタのサルベージ第3弾。
本当は「製作裏話。」の後に書いた日記だったんですが、ネタ的に「ミステリー」のその後風味に改造。
本当にどうなってんでしょうね、あの袂……。