かわいい?


じりじりと太陽が容赦なく照りつける中、三蔵一行はジープで荒野をひた走っていた。
「あっち〜……」
ぐったりした様子で、悟浄が手でパタパタと扇いでいる。
しかしこの暑さでは気休めにすらならず、その結果悟空と2人でひたすら「暑い」と繰り返していた。

同じ言葉を繰り返す悟空と悟浄に、助手席の三蔵のこめかみに青筋が浮かぶ。
「うるせえ! 後ろでグダグダ喚くな、鬱陶しい!」
「んな事言ったって、あちぃモンはあちぃんだからしょうがねえだろー?」
既に汗だくの悟浄が、ダルそうに座席に身体を投げ出しながら言う。
「そういえば、三蔵ってあんまり暑いとか寒いとか言わないよな」
悟空のその言葉に、三蔵が僅かに振り返る。
「言ったからって、マシになるわけでもねえ。言うだけ無駄だろう」
そう言う三蔵は、パッと見ではさほど暑さに参っている風には見えなかった。

「でもよー、こういうのって思わず言っちまわねえ?」
「言わんな」
あっさりと即答され、悟浄は憮然とした表情になる。
「……マジ可愛くねえヤツだよな、お前って」
「当たり前だ! 可愛くてどうする、バカ河童!」
「そうですか? 女性には可愛いと評判のようですが」
今まで静観していた八戒が、さらりと爆弾発言を投下した。

「……何だと?」
思わず問い返した三蔵に、八戒は楽しそうな笑顔で答える。
「宿に泊まった時とか、僕達のやり取りを見た後でそんな風に他の女性客や従業員の方が話してらっしゃるのを何度か聞いた事がありますよ」
「悟空ならともかく、何故俺が『可愛い』んだ」
こめかみの青筋を増やして、三蔵が八戒を睨みつける。

そんな三蔵をチラリと見て、八戒はにっこりと笑う。
「……という事は、『悟空は可愛い』と三蔵は思っているわけですね?」
思わぬ切り返しに、三蔵の顔にあからさまに動揺が走る。
「なっ……! そ、そんな事言ってねえだろう!」
「どもってますよ、三蔵」
「うるせえ! 妙な事を言うな!」
完全に八戒に遊ばれている三蔵であるが、それを察する余裕はないようだ。

「ムキんなっちゃって。やっぱ可愛いねえ、三蔵サマは」
「さっきと言ってる事が正反対ですよ、悟浄」
「そうか? っつーかよ、可愛くねえところが可愛いんだよなー」
「あはは、まあ何となく分かりますが」
好き勝手な会話を続ける悟浄と八戒に再び三蔵が怒鳴ろうとしたその時、悟空の声が重なった。


「あー、なんか俺も分かる! 三蔵って時々可愛いよな!」


その瞬間、三蔵の身体がピシリ、という音を立てて固まった。


無理もない。
この愛らし過ぎるほど愛らしい小猿に「可愛い」と思われているなどとは、チョモランマより高いプライドの三蔵にとってはこの上ない衝撃だろう。

「……おい、三蔵の意識がトんでるぜ」
「ああ、ホントですね。まあ、放っといてもその内立ち直りますよ。多分」
にっこり笑顔で言い放った八戒に、悟浄は思わず三蔵に同情の視線を向けた。



この後、石化した三蔵が意識を取り戻すまでに何時間かかったかは、彼の名誉のために割愛しておく。





日記アテレコネタのサルベージ第4弾。
ちょっと三蔵が受けくさいですが、お気になさらず。
個人的には八戒にツッコミを入れられて、慌てる三蔵様が好きです。
「悟空は可愛い」はもう既に三蔵にとっては当たり前なんで、つい言っちゃったんでしょうね(笑)

2005年7月23日UP
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