たんじょうび


「も〜い〜くつ寝〜る〜と〜たんじょうび〜」
「……どこの国の歌だ。ついでに時代も考えろ」
「ツッコミどころはソコかよ」
楽しそうに歌う悟空に三蔵が静かにツッコみ、それに更に悟浄がツッコむ。

「まあそれはともかく、折角のお誕生日なんですからお祝いしましょうね」
「え、ホント、八戒?」
「もちろんです。誕生日プレゼントもちゃんと用意しておきますから、楽しみにしてて下さいね」
優しく笑いかける八戒に、悟空は瞳を輝かせる。
「サンキュー、八戒!」
そんな悟空を満足そうに眺め、八戒は悟浄と三蔵を振り返る。

「2人とも、ちゃんとプレゼント用意しなきゃダメですよ」
その言葉に、当の2人は眉を顰めた。
先に口を開いたのは悟浄だ。
「俺もかぁ? でもアレだ、お前も俺からのプレゼントなんていらねえだろ?」
「いる」
「こういう時に限って素直に即答してんなよ!」
きっぱりと答えた悟空に、悟浄は今度は悟空へとツッコむ。
普段なら悟浄からのプレゼントなんて気味悪がるのだろうが、悟浄が期待している返答を悟ってこういう返しをしたのなら、それは一体誰の影響であろうか。
ここに第三者がいれば「3人全員」とそれこそ即答するだろうが、生憎ここには三蔵達4人しかいなかった。

「あーもう、わーったよ。とびっきりのプレゼント用意してやっから、覚悟しとけよ!」
そうは言いながらも、きっと悟空の喜びそうなものを選んでくるであろう事は間違いない。
その辺が、何だかんだと言いつつも人が好い悟浄の悟浄たる所以である。

そんな悟浄を眺めやった後、八戒は三蔵に向き直る。
「三蔵も、ちゃんと用意して下さいね?」
曇りのない──しかし何故か背後にオーラが見える──笑顔でそう告げられた三蔵は、広げていた新聞を畳んでため息をつく。
「くだらねえ。誕生日って歳でもねえだろ」
「歳は関係ありません。いくつになっても、誕生日はおめでたいものですよ」
「だから、祝いの席くらいは付き合ってやる。プレゼントは知らん」
「『知らん』じゃないですよ。物を買うのが嫌なら、何かしてあげるのでもいいですから」
「断る」
「強情ですねぇ……」
「うるせえ」
取り付く島もない三蔵の様子に、今度は八戒がため息をつく。

「悟空? 何か三蔵から欲しいものや、してもらいたい事はないですか?」
「え? えっと……」
三蔵をチラリと見る悟空に、八戒はわざとらしく大きな声で続ける。
「ああ、気にしなくていいですよ。例えば、の話で、三蔵に強制するわけじゃないですから」
三蔵がこめかみに青筋を浮かせた事など、どこ吹く風といった感じである。

「そうだなぁ……。あ、そうだ、じゃあその日はめいっぱい、もう思う存分好きなもの食っていいとかは!?
「三仏神を破産させる気か、お前は」
悟空の恐ろしい『プレゼント』の要望に、三蔵はすかさずツッコミを入れる。
「破産する神様ってのも間抜けな話だよな」
悟浄がそっと感想を漏らすと、それに八戒が疑問を投げかける。
「そういえば、天界にも自己破産とかあるんですかね?」
「俺が知るか!」
イライラとしたように、三蔵は言い捨てる。

「ダメかぁ……。そんじゃあ……う〜ん……何だろう……欲しいもの……」
考え込む悟空に、八戒は悟空の肩に手を置いてそっと微笑む。
「今じゃなくてもいいですよ。当日までに考えておけば」
「当日まででいいのか?」
「ええ。三蔵が渋っていたら、無理やり奪って下さっても全然OKですから」
「嫌な言い方をするな! それ以前に、『強制するわけじゃない』んだろうが!」
不穏な事をさらりと言う八戒に三蔵は思わずツッコむが、そこで話は終わらなかった。
「うん、分かった!」
「お前も力強く頷いてんじゃねえ!」
八戒の言葉に対してぐっと拳を握り締めて頷いた悟空にも、三蔵のツッコミが入る。

「じゃあ、話は決まったという事で、誕生日までに考えておいて下さいね悟空」
「待て、一体いつ決まった!」
重ねて入る三蔵のツッコミは華麗に無視され、八戒と悟空の間で既に話はまとまってしまっている。

もうツッコむ気力すら失われかけている三蔵の肩を、誰かがポンと叩いた。
振り返ると、悟浄が俯きがちにゆるゆると首を左右に振っている。

『ツッコむだけ無駄』

アイコンタクトで意思疎通をした2人は、その日、ひっそりと酒を酌み交わしたという。





悟空の誕生日用小ネタ。
No.1ツッコミ要員は間違いなく悟浄だと思いますが、三蔵も割とツッコミ属性ぽい。
でも、三蔵はボケも出来る貴重な御人です。
今回は悟浄ばりにツッコんでもらいましたが、どんなツッコミも八戒(と悟空)の前では無意味のようです。
問題の、『無理やり奪う誕生日プレゼント』に関しては、また機会があったらひっそり書いてみたいです。

2006年4月7日UP
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