一段と冷え込みが激しいその日、三蔵たちが宿に到着した直後、案の定雪がちらつき始めた。
だが、室内は外とは無縁の暖かさ。
それもそのはず、四人部屋のど真ん中には巨大なこたつが鎮座ましましているのだ。
四人はほどよく暖まったこたつに入り、八戒の淹れてくれたコーヒー(悟空だけはホットミルク)などを啜っている。
「は〜、やっぱり冬はこたつですねえ」
しみじみ呟く八戒の横で、悟浄は恐ろしいモノを目にしていた。
「は・・はっかいさん、ちょっと聞いてもいい・・・?」
「はい?なんですか悟浄?」
「アレ・・・何?」
悟浄の怯えきった視線はまっすぐに三蔵へと注がれている。
いや――正確には、三蔵の袂の奥に差し込まれている電源コードを。
こたつから伸びているからにはこのこたつの電源コードなのだろうが・・・
それが一体どうして
三蔵の袂に突っ込まれて、しかもちゃんとこたつが稼動しているのだ!?
「ああ、アレですか」
八戒はにこやかに笑っている。
「この前三蔵の袂の機能を色々見せてもらったでしょう?
だったら電源くらい取れるかな、と思って試しにやってみたんです。
いやーやればできるもんですね。ふふふふふv」
「ンなこと試すんじゃねぇぇぇぇぇぇ!!」
「え?だって電気代って案外馬鹿にならないじゃないですか」
おそるべき質素倹約精神である。
話題に上がっている三蔵はといえば我関せずを決め込んで新聞を広げている。
不機嫌そうな横顔に、一体どんな手段を用いて言うことをきかせたのかすさまじく気になったが、
やはり自分の命の方が大事というもの。
・・・と思った瞬間、舟を漕いでいた悟空の頭がとさりとこたつ机に沈んだ。
昼間の疲れかはたまたこたつの魔力か、机にぶつかった衝撃にもかかわらず眠ったままだ。
くうくうと寝息をたてる悟空はそれはそれは可愛くて、八戒や悟浄は勿論、三蔵までも表情を緩める。
「疲れちゃったんですね・・・悟空、」
こんな所で眠ると風邪をひいちゃいますから、お布団に入りましょうか――そう続くはずのセリフは中断されてしまう。
「ふはははははははは、見つけたぞ三蔵一行!!」
窓ガラスを破壊して殴りこんできた、哀れな刺客たちによって。
乗り込んできた刺客たちを、八戒は冷たく睥睨した。
「無粋な人たちですね・・・。悟空が起きちゃったじゃないですか」
「ほえ?何があったの?」
まだ眠気を払いきれていない悟空が首を傾げている。
八戒は刺客たちに向けたのとは天と地ほど違う優しい笑みを浮かべ、やわらかな髪を撫でてやった。
「悟空は何にも心配することはないんですよ。悟浄が片付けてくれますからね」
そう言ったと同時に、悟浄はこたつから蹴りだされた。犯人はもちろん四次元袂の持ち主である。
「んな、何すんだよ三蔵っ!」
「ちゃっちゃと片付けてこい」
「そうですよ悟浄。大丈夫、悟浄なら出来ます」
その瞬間――悟浄が着ていた真っ赤なはんてんが眩しく光った。
説明しよう!(←戦隊モノ・ナレーション風に)
沙悟浄とは世を忍ぶ仮の姿。
悟浄の真の姿は、はんてん戦隊こたつむりん――赤い彗星・レッドだったのだ!!
「勝手なナレーションを入れてんじゃねーー!!」
真っ赤なはんてん着てこたつ背負った姿で凄んでもぜんぜん怖くないです、悟浄さん。
「ほらほら悟浄、敵さんがお待ちかねですよv」
八戒の双眸がきらりと光る。そのとたん、悟浄の意志とは裏腹に体が勝手に動き出す。
説明しよう!
これははんてんグリーン・八戒の必殺技、マリオネットスマイルといい、敵味方関係なく操ることのできるすごい技なのだ!!
「説明はいいからなんとかしろぉぉぉぉ!」
いや・・悟浄さん、八戒さんに逆らうなんてそんな恐ろしい・・・。
その夜。
泣きそうな顔で戦うレッドの前に、刺客たちはあっさり敗北したそうな。