「う〜、あったかい〜♪」
悟空はコタツに全身潜り込み、まさに『こたつむりん』状態である。
「おいバカ猿! せめて上半身くらいコタツから出せ! というよりも、寝転がってねえで座れ!」
「だって、寒いんだもん」
「冬なんだから当たり前だ」
全身の温もりに未練はあるものの、三蔵が袂に手をやったのを見て仕方なく起き上がる。
起き上がって前を向くと、テーブルの上に置いてあるものが目に入った。
「あ、みかん! なぁなぁ、食っていい!?」
そう言いながら、もうその手はみかんを手に取っている。
「勝手に食え」
「へへ、やった〜」
悟空はウキウキしながらみかんを剥いて食べ始める。
「あ、コラ猿! 1人で食うなっつーの!」
次々となくなっていくみかんを見て、悟浄が悟空の頭をぐりぐり押さえつける。
抗議する悟空をかわしつつ、悟浄もみかんを手に取って剥き始める。
それどころか、八戒までが美味しそうにみかんを食べている。
何も知らない第三者が見れば、実に微笑ましい、ほのぼのとした光景である。
「あれ? 三蔵、食べないの?」
さっきから3人を呆れたように見ている三蔵に、悟空が声をかける。
「いらん」
「だって、甘くてすっげえ美味しいよ?」
「そうですよ、三蔵。これ、愛媛の伊予みかんなんですよ?」
「……何処だ、それは」
「細かい事は気にしちゃいけません。それよりも、折角なんですから三蔵も食べましょう?」
「いらねえって言ってんだろ」
「もしかして、『手が汚れるから』とか言うんじゃねえの? 潔癖症だからねえ、三蔵サマはv」
「……殺すぞ」
「なぁんだ、なら、これでいいじゃん。はい三蔵、あ〜ん♪」
「「「……………………………………」」」
悟空を除く3人が、座ったままピキリと固まってしまっている。
無理もない。剥いたみかんの一房を三蔵の前に差し出して「あ〜んv」などという衝撃発言。
『v』は作者の三空妄想ウイルスが勝手に添付したものと思われるが、気にしてはいけない。
それはともかく、さすがにこの発言には、3人とも一瞬思考がついていかなかったようだ。
ここでいち早くアッチの思考から戻ってきたのは、やはり八戒であった。
「……悟空? あの、『あ〜ん』というのは……?」
「え? だって、手が汚れるから嫌なんだろ? これなら手ぇ汚れないじゃんか」
確かにその通りである。その通りではあるのだが。
「ふざけんな。そんな真似出来るか!」
案の定、三蔵はその手を突っぱねる。
しかし、次の瞬間目にした悟空の心底悲しそうな表情に、罪悪感が襲った。
「……俺、三蔵に食べて欲しくて……」
本日2回目の、うるうる瞳攻撃。
────そして本日2回目の敗北。
とある宿の一室、そこの部屋の中央のコタツには、嬉々として三蔵にみかんを食べさせる悟空と、
恐ろしく不穏な雰囲気を纏わりつかせた八戒と悟浄の姿があったという……。