人間の襲撃から数日後、ホクレアの聖地から降りる日が近づいていた。
吹雪の続いた日が嘘のように、今日の夜空は晴れ渡っていた。
都で見たものより、王城で見たものよりもずっと透き通った星空が、ベルカの頭上でまたたいている。
「わぁ〜きれいだねー」
不意に掛かった声に驚いて振り向くと、外に居てはいけない人物がのそのそと建物から出てきたところだった。
「お、おいエーコ!お前まだ寝てろって!」
「もう痛みも引いたし、体は大丈夫だもん」
怪我した部分には包帯が巻かれ、ベルカから見ればまだ痛々しい状態だ。
しかしエーコ本人は寝てるだけじゃつまらない、折角だからいろいろ見たいと飄々としている。
「……無理だけはすんなよ」
「ありがとーベルカは優しいね!」
「そんなんじゃねーって……はぁ」
ため息で締めくくるのは、ちょうど考えていたこととリンクする内容に繋がるから、だ。
不思議そうにベルカを見上げてくるエーコと同じように、ベルカも再び星空に目を向ける。
「『空に輝くものの名前』ね……」
ホクレアとしての名前をもらってからずっと考えていた。
「輝く、なんて出来るのか……?」
視線が一つの星に留まると、ベルカの口からは思考の欠片がぽろっとこぼれ落ちる。
「『彗星』って流れ星だよね! 今日は空にないのかなぁ?」
ベルカのつぶやきを無視するようなエーコの話題に振り向くと、エーコは至って真剣に夜空を見つめていた。
ベルカが見ていることに気がついたのか、エーコは空からベルカに視線を移動して笑う。
「ベルカはさ、自分の名前の意味解ってる?」
「『暁』の意味……?」
そう、とうなづいてもう一度エーコの視線は星空へと向かった。
「『暁』、始まりの空、夜明けの輝き……ベルカはね、空なんだよ。 自分で光るんじゃなくて、光り輝くものたちを包む、舞台そのもの。」
「そんな……」
そんな格好いいものじゃない、格好好くなんてなれない。
とっさに応えそうになった。
「……そっか」
けれど、口からはため息のような肯定の言葉が滑り出していく。
『なれない』、じゃなくて、『なりたい』と思う気持ちを、後押しされたような気がした。
「ならなきゃ……なんだよな」
まだ真っ暗な空に、輝く星へと手を伸ばす。
この手を取ってくれた、たった一人のためにも。
Twitterでいつもお世話になっている、おーみさんに頂きました!
夏インテでこんな素敵なお話を差し入れてくださって、嬉しくってもう!
「光り輝くものたちを包む、舞台そのもの」! まさに今の王子様ベルカ!
「暁」にふさわしい自分になろうとするベルカの強さと健気さがたまりません……。
ありがとうございましたー!