01.おひさま



柔らかく降り注ぐ、眩い太陽の光。
その下で屈託なく笑う彼の人。
そんな未来を差し上げたかった。
もしも叶うならば、それをすぐ傍で見守っていられたらいいと思った。

その願いは、一度は完全に潰えたはずだった。
鉄柵にこの身体を貫かれた、あのときに。
もうこの方を守っていくことは出来ない。そう覚悟した。

零れ落ちる涙を止める術もない自分が、あまりにも情けなかった。
太陽の光どころか、暗い雨を降り注がせているのは、他でもない自分自身だった。
こんな顔をさせたいわけではないのに。
光のような笑顔を見たかったはずなのに。

暗く落ちていく意識の中で、ひたすら願った。
いつか、この方の上に優しい光が降り注ぎますように、と。



そして今、生きながらえ彼の人のいる場所への道を辿っている。
追っ手の目から隠れるための籠の中、息を潜める。
外は、雨が降っているようだ。

今も……あの方の上には冷たい雨が降り続けているのだろうか。
寒さに耐えながら、懸命に歩き続けているのだろうか。
優しい……あまりにも優しい王子殿下。
その心に深い傷を負わせたのは、自分だ。

もしも許されるのなら。
その雨から守る役目を、もう一度。
いつか晴れ間が見えるまで、この身を傘にして守りたい。
雨に濡れても立ち上がる強さがあることは、知っているけれど。
少しでも濡れずに済むように、その雫を拭って差し上げられるように。

そうすればいつか、夢に見たあの穏やかな光があの方を照らしてくれるだろうか。
柔らかい日差しの下、サンドイッチを食べ、本を読み、いつしかうたた寝をする。
そんな、本当ならば何でもないはずのひととき。
笑みが零れる、優しい時間。

「殿下……」
小さく、呼びかける。
応えてくれる声はなくとも、口にするだけで胸の中が暖かく、そして締め付けられるように痛くなる。
早く会いたかった。
随分と長く聞いていない、その声で名を呼んでほしい。
それだけで、どんなに満たされるだろう。

会えないことで、愛しさは増していくばかりだった。
この方の傍らでなくては生きていけないとさえ思った。
それは、太陽の光そのもの。
太陽がなくては、人は生きてはいけない。



しとしとと、雨は降り続く。
あの方の元へ辿り着いたなら、きっとこの雨は止むだろう。
そのとき、同じようにあの方にも光が降り注いでくれればいい。

冷たい雨の後には、いつか必ず暖かい陽射しが訪れる。
そう信じて、ゆっくりと目を閉じた。


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