03.きらきら



王府に向かう馬車の中、ミュスカが落ち着かなさそうな様子で眉を寄せている。
「内親王殿下、お疲れですか?」
シャムロックの膝の上に座っているミュスカに、リンナが心配そうに声を掛ける。
「だって、ずっとゆれてるんだもの!」
そう主張するミュスカの気持ちは、ベルカとしても分からなくもない。
ベルカ自身、コルセットのキツさも相まって長時間の馬車はかなり疲れるのだ。
まだ幼いミュスカでは尚更だろうと思う。

リンナも同じことを思ったのか、僅かに馬車の扉を開けてエーコに声を掛ける。
「エーコ殿。どこか、休憩できそうなところはありませんか」
「んー、そうだねー……。もう少し先に湖があるはずだから、そこで休憩しよう」
そのエーコの言葉をリンナがミュスカに伝え、ミュスカも何とか納得したようだ。



しばらくして、馬車がゆっくりと止まる。
外に出ると、小さな湖が広がっていた。
丁度昼時ということで、前の街で用意しておいたお弁当を皆で食べる。
遠慮なしにバクバクと食べるシャムロックと奪い合いをしたり、逆に遠慮しすぎてロクに食べないリンナに強引に食べさせたり。
そんな賑やかな食事の後は、水辺で各々休んでいた。

「おい、ミュスカ。あんまり近付きすぎて落ちるなよ」
興味津々といった様子で湖の水面を覗き込んでいるミュスカに、後ろから近付いていって釘を刺す。
「しつれいね! ミュスカはレディなのよ!」
レディであることと湖に落ちないことに何の関係があるのかは分からないが、これ以上怒らせても面倒なので納得したフリをしておいた。

何となく、ミュスカのすぐ傍に腰を下ろす。
水面が、陽光を反射して輝いている。
「キレーだな……」
呟くと、ミュスカがきょとんとベルカを見て、その視線の先に顔を向ける。
「きらきらしてるわね。なんだか、宝石みたい」
「ああ、そうだな……」
むしろ、人の手で創った宝石などよりも、ずっと美しいと思った。
どちらかといえば、そう、キツネの洞窟で見た天然の光枝結晶の美しさに近い気がした。

「おにいさまも……」
ポツリと、ミュスカが呟く。
「オルセリートおにいさまにも、見せてさしあげられればいいのに……」
この美しい景色を、オルセリートと3人で。
もう、4人で揃って見ることは決して叶わないけれど……せめて。

「連れてくればいいじゃねーか」
「え?」
湖を見つめたまま、ベルカは言葉を続ける。
「オルセリートを助けに行くんだろ。助け出せたら………… 一緒に来ようぜ」
きっと、喜ぶだろう。
輝く水面の美しさにも、ベルカとミュスカと一緒に来られたことにも。

僅かに服が引っ張られた感覚がしてふと横を見る。
小さな手が、メイド服のスカートの端を握り締めていた。

見下ろす横顔に、ほんの少し光るものが見えたことには…………気付かないフリをした。


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