ずぶ濡れだった服を乾かして、ようやく3人ともちゃんとした身なりになる。
雨もようやく上がり、空には晴れ間も見えてきている。
そうして、再び城へ向けて出発した。
「あ! なあ、エーコ、あの屋台寄っていいか!?」
「……君、懲りてないよね」
「今度は逃げたりしねーって! なあ頼むよ、すっげー美味そう」
呆れたようにため息をついて、エーコがそれでも馬車を止める。
「そんなに心配なんだったら、リンナも一緒に行こうぜ」
それなら安心だろ、とベルカが視線をやると、リンナが微笑む。
「分かりました。お供いたします」
2人で馬車を下り、屋台へと向かう。
ホカホカと湯気を立てる美味しそうな串焼きを手に、ベルカはご満悦で馬車に戻ろうとした。
そのとき、走ってきた子供を避けようとして軽くふらつく。
大きな水音がしたことに気付いたときには、既に両足がずぶ濡れになっていた。
「あーもうベルカってば! 折角乾かしたのにー!」
言わんこっちゃないとでも言いたげな顔で、エーコが怒っている。
「悪かったよ……」
「いえ、私がもっと気をつけていれば良かったのです。申し訳ございません」
「仕方ないなぁ。中にタオルあるから、馬車の中で拭いてあげてよ」
そうエーコに言われて、リンナが何故か一瞬固まる。
「わ、私が、ですか?」
「他にいないでしょ? それとも嫌なの?」
「いえ! とんでもございません!」
「ならお願いするね、オルハルディ」
そう言うと、エーコは再び御者席に戻ってしまった。
2人で馬車の中に戻り、向かい合って座る。
リンナはタオルを取り出し、ひとつ深呼吸をしている。
「それでは……殿下。おみ足をこちらへ……」
言われるままに、ひとまずは右足を差し出す。
リンナはその足をそっと取ると、ブーツを脱がせる。
「幸い、中はそんなに濡れてはいませんね……」
そう言いながら、タオルで丁寧にベルカの足を拭いていく。
ストッキング越しに触れる、リンナの大きな手。
王子の足に触れているということで緊張しているのだろうか、僅かにその手が震えているように見える。
ベルカ自身の足も震えている気がするのは……きっと、リンナの緊張が感染ったからだ。
そうでなければ、足が濡れて寒いから。
それ以外の理由など、ない。
リンナの手が触れている場所が、くすぐったくて……熱い。
鼓動がどんどん速くなる気がして、そんな自分に戸惑う。
たかが足を拭いてもらうくらいで、どうしてこんなにも動揺しているのだろう。
ふくらはぎに触れられ、ビクリと身体を揺らす。
「あ……申し訳ありません」
「え、いや、ちょっとくすぐったかっただけだから」
本当は、今はくすぐったさなど感じなかった。
触れられた瞬間に感じたのは……痺れたような、甘さ。
いくら女の格好をしているからといって、男に足を触られてこんな風に感じるなんて、どうかしている。
そうは思っても、感覚は止められなかった。
水に濡れて冷たいはずの足がどうしようもない熱に侵されていくような…………そんな、気がした。