17.なかよし



言葉が通じないって、本当にもどかしい。



修道院前で捕まっていたベルカちゃんの『仲良しさん』。
洞窟での一件以来だったけど、するりとそんな言葉が出てきた。
交わしていた言葉すら分からなかったのにどうしてそう思ったのか考えてみたら、きっと間に流れてた空気のせいなんじゃないかしら。

赤毛さんの方はそれこそ何を言ってるのか分からなくても、ベルカちゃんが大好きなのがすぐに分かったわ。
で、ベルカちゃんの方も、彼を見る眼差しがどこか柔らかい気がしたのよね。
あたしたちに向けてた視線との差が凄すぎて、余計に印象に残ったのかもしれないわ。
もっとも、そのベルカちゃんのあたしたちを見る目も、石の都のお屋敷で別れる頃にはすっかり変わってたけどね。

赤毛さんを助け出すまでは、本当にただの仲良しさんだと思ってたのよ。
最初に気になったのは、荷馬車の上でベルカちゃんが目を覚ましたとき。
赤毛さんを見て、ちょっとオロオロしながら赤くなってた。
もしかしてって思って、どさくさに紛れて赤毛さんに抱きついてみたら案の定動揺してた。
それがあんまり可愛いものだから、もう少しでベルカちゃんにも抱きついちゃうところだったわ。

それから時々ベルカちゃんと赤毛さんを見てたけど、見てるこっちが照れちゃうくらいほんわかした雰囲気出してるの。
どうして誰も気付かないのかしら?
それとも、みんな知ってて気付いてないフリをしてるのかしら。
やっぱり石の都でも男同士っていうのは、なかなか認められないものなのかも。
でも、あたしが見てる限りでは二人のことを嫌な目で見てる人は全然いない。
たとえ気付いていても優しい目で見守ってる感じ。
これも、ベルカちゃんと赤毛さんの人徳ってやつかしら?

この街に来て、石の都への印象が随分変わった気がするわ。
もっとずっと冷たくて、あたしたちを見下して楽しんでる連中だと思ってた。
そういう連中ももちろんいっぱいいるんだろうけど、ここの人たちはすごくあったかい。
館の人たちも歩き回るあたしの姿を見て、笑顔で何か話しかけてくれて。
傍にいた新月が「元気になって良かった」って言ってくれてるんだって、教えてくれた。
あたしが元気になったことを喜んでくれる石の都の人たちがいる。
それが、何だか気恥ずかしくて嬉しかったわ。

……あたしたちホクレアも、そんな風に感じてもらえてたらいいんだけど。
この街で初めて仲良くなった医術師の助手さんも、最初はホクレアの男が怖かったみたい。
けど、今はあたしと仲良くしてくれてる。
今でも天狼ちゃんとか他の男はちょっと怖いみたいだけどね。

あの新月もちょっと仲良くなりそうな子供とかいるみたいだし、このままこの空気が広がっていくといいなって思うわ。
最初に聞いたときは夢物語でしかないって思った天枢が目指した世界も、今なら本当に叶えられる気がしてくるから不思議よね。



「なーにニヤニヤしてんだー?」
かけられた声に振り向くと、天狼ちゃんが楽しそうに歩いてきてた。
「ニヤニヤだなんて失礼ね!」
そういうデリカシーのないことを言うから、女の子にモテないのよ!

それはそうと、天狼ちゃんは気付いてるのかしら……ベルカちゃんと赤毛さんのこと。
「ねえ、天狼ちゃん。ベルカちゃんと赤毛さんのことだけど」
「ん? さっき会議室にいたぜー」
「そうじゃなくて」
……どう考えても、気付いてそうにないわね。
ホント、天狼ちゃんはお子さまなんだから。
それが天狼ちゃんの良いところでもあるんだけどね。
「じゃあ何だよ、ベルカとあのでっかいのがどうかしたのか?」
「何でもないわよ、天狼ちゃんにはまだ早い話だったわ」
「ガキ扱いすんなって言ってんだろー!」
そうやってムキになるところがまた可愛いんだって言ったら、やっぱりもっと怒るかしら。

「そうだ、天狼ちゃん。今度石の都の言葉を教えてちょうだいよ」
言葉が分かるようになれば、ベルカちゃんと赤毛さんのことも2人に直接聞けるし。
恋愛相談にだって、乗れるかもしれないじゃない?
あたしの見たところ、あの2人の周りで恋愛話が出来そうな人ってあまりいないみたいだし。
ユーリちゃんとも、新月に毎回通訳してもらわなくたってお話出来るようになるし。
この街の人たちともたくさんお話できるようになれたら、素敵じゃない!
「いーぜー! 大角たちにも頼まれてるし、2人も3人も変わんねーし」
「ありがと、天狼ちゃん」
……何よ、その顔。失礼ね。
素直に感謝したのにそんな顔されたら傷ついちゃうわー。



でも、こんないつものことが、あたしは大好き。
これからきっとたくさん大変なことがあるでしょうけど、『いつものこと』が守れるようにあたしも頑張らなくちゃ。

恥ずかしいから、口に出したりはしないけど、ね。


2012年7月8日 UP

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