花火



久しぶりに辿り着いた大きな街。
その賑やかさ、活気に溢れた華やかさに三蔵達も少々驚く。
「へ〜、随分賑やかじゃん」
悟浄が周りを見渡しながら感想を漏らす。
「ああ、何でも今日から数日の間お祭りなんだそうです。
 さっきすれ違った方たちのお話をちょっと耳に挟んだだけですけど」
「え、お祭り!? 三蔵、行ってみようぜ!」
「却下」
「え〜! 何でだよ〜、三蔵のケチー!」
「まあまあ、悟空。先に宿を見つけてからにしましょう。この人出で、宿が満室になってしまっても困りますし」
「そういう事だ。それとも野宿したいか?」
言っている事は正論なので、悟空も渋々承諾する。
そして悟浄・八戒を先頭にして4人は宿探しを始めた。

まだ不満そうな悟空に三蔵は近付き、悟浄と八戒に聞こえない程度の声で呟く。
「……宿が取れたら、夕食の後に連れて行ってやる。
 どうせ祭りが本格的になるのは、大抵夜からだからな」
それを聞いた途端、悟空の表情が一転して明るくなる。
「ホント!? 絶対だかんな!」
「叫ぶな、バカ猿」
同時にハリセンが悟空の頭にヒットする。
それでも嬉しそうな悟空に、三蔵も思わず笑みがこぼれそうになる。
もちろん、表面に出る前に消し去ってしまうのではあるが。


何軒かの宿を回って、ようやく空きのある宿を見つけた。
宿探しに時間を取られてしまったため、もう日は傾き始めている。
荷物を置いた後、食堂で少し早めの夕食を取り、それぞれ部屋に戻る。
2人部屋が2つ取れたのだが、部屋割りは三蔵&悟空と悟浄&八戒である。
悟浄と八戒は少々不服そうだったが、三蔵の知った事ではない。

「なあなあ、三蔵! お祭り行こうぜ! 約束だろ!?
「分かってるからちょっと待ってろ」
三蔵は現金の入った財布を荷物から取り出し、袂に入れる。
祭りの夜店でカードなど使えるはずがないのは分かりきっている。
しかしさすがに三仏神のカードと違い、使える額はそう多くない。
普段カードに頼り切っているだけになおさらだ。
万が一カードが使えなくなった時のためにもそう無駄遣いは出来ない。

三蔵は悟空の待つ部屋の外に出ながら、一応悟空に釘をさす。
「おい悟空。いくら祭りでもムダなものは買わんからな」
先に言っておかないと、悟空にねだられると却下するのは結構つらいものがある。
今まで何回、思わず買い与えそうになった事か。
欲しがるものを全部買い与えるのは、決して悟空の為にはならない。
だからこそ、三蔵もあえて厳しく制限している。
買ってやりたいという思いを出来る限り抑えて。

「うん、分かった!」
悟空が意外と素直にその言葉に応じる。
悟空にしてみれば、三蔵と2人で祭りに行ける事だけでも十分なのだから。
それに関しては、三蔵も同じようなものだ。
悟空が一緒でなければ、わざわざ人込みの中に出て行くなど冗談じゃない。

「な、早く行こうぜ! 三蔵!」
悟空はもう既に宿から外に出てしまっている。
これだけ純粋に喜ばれると、三蔵も少しくらいなら買ってやってもいいかという考えが出てきてしまう。
何だかんだ言って悟空を甘やかしているなどとは、三蔵はあまり自覚していない。


三蔵と悟空は夜店の建ち並ぶ中を2人で歩いていた。
「うわー、すっげえ人!」
「ちょろちょろ動き回ってはぐれるんじゃねえぞ」
「うん、分かってる」
そう言いながら、悟空はキョロキョロと周りを見渡している。
本当に分かっているのかと思うが、今日はどうも叱る気になれない。
祭りの楽しそうな雰囲気に、三蔵もあてられてしまっているのかもしれない。

買うものを厳選しつつ人込みの中を歩いていた三蔵達であるが、
三蔵が少し目を離したスキに悟空の姿がなくなってしまっているのに気が付いた。
「あのバカ猿! あれほどはぐれるなって言っておいたものを……!」
三蔵は少々慌てた風に辺りを見回すが、この人込みではそう簡単に見付かるわけがない。

もちろん、悟空だって子供ではない。
はぐれた所でいずれ宿に戻ってくるだろうし、物騒な連中に絡まれたとしても悟空の相手になるはずがない。
だから、本当ならそう心配するような事ではないのだ。
だが、頭ではそう考えているものの、足は人波を掻き分けるように進み、目は悟空の姿をひたすらに捜している。
悟空も三蔵の姿がなくて不安になっているはずだと思うと、余計に見付けなければならないような気がしてくる。


「あ、三蔵!」
しばらく捜し回っていると、横から悟空の声が聞こえた。
振り向くと、悟空が人込みの隙間を縫って三蔵に駆け寄ってくる。
「良かった〜! 振り向いたら三蔵いねーんだもん、どうしようかと思った……!」
「はぐれるなって言っただろうが! このバカ猿!」
悟空の姿を見て安心した反動で、思わず怒鳴ってしまった。
「……ごめん……」
こう素直に、しかもしょげたように謝られると、自分が悪い事をしているような気分になる。

三蔵はくるりと踵を返して歩き出す。……ただし、悟空の手を取って。
「……三蔵?」
「いくら猿でも、これならはぐれようがねえだろ」
三蔵は悟空の手を引いたまま、視線は合わせずにいた。
今の悟空の表情が分かるから。
その表情を見てしまったら、そのまま引き寄せてしまいたくなるだろうから。

手を繋いだ状態のまま、2人で祭りの喧騒の中を歩く。
ふと三蔵は、手を繋いで以降悟空が食べ物を要求していない事に気が付いた。
「おい、悟空。欲しいモンはないのか?」
いつもなら三蔵からこんな事を聞いたりしない。
その前に悟空が必ず「あれ買って!」とか「これ食いたい!」とか言ってくるからだ。
だからこそ、悟空がそれを言わないのが気になった。

「ううん、いいよ、別に」
「……どこか調子でも悪いのか?」
「んー、そうじゃないけどさ」
悟空が、ちょっと照れたように俯いてから答える。
「なんか食いモン買って食べるんならさ、この手、離さなくちゃいけないだろ?
 ……俺、こっちのがいいもん」
そう言って、悟空が三蔵の手を握る力をちょっとだけ強める。

こんな風に。
悟空が言う一言が、三蔵にとってはいつも暖かなものとして胸に流れ込む。
悟空に出逢うまでは、こんな暖かさなど忘れていた。
この手を絶対に離したくないと、心の底から思うのはこんな時だ。
決して失えない、失ってはきっと生きる事すら放棄してしまいかねない、この暖かさ。

悟空を抱きしめたい衝動に駆られた。
しかし、さすがに場所が悪すぎる。
何とか気持ちを抑え、悟空と同じように握り返す手をほんの少し強めて再び歩く。

「なあ、三蔵。さっき三蔵を捜してる時に聞いたんだけど、あっちの方でもうすぐ花火が上がるんだって」
「行くか?」
「うん!」
三蔵達は悟空の指差した方へと並んで歩いて行く。

「? 悟空、どうした」
急に方向転換をした悟空に、三蔵が声を掛ける。
「夜店やってたオバさんが教えてくれたんだ。花火のよく見える穴場があるんだってさ」
悟空は三蔵の手を引いて、嬉しそうに笑う。
三蔵も手を引かれるままについていく。

その穴場は、祭りの中心から少し離れた丘のような場所だった。
涼しい風が吹き抜けていくのが気持ち良い。
木が何本か立っているが、方向的に花火を見るには邪魔にはならないだろう。
人気もほとんどなく、確かに穴場だった。
三蔵からすれば、あんな人込みにいるよりはこちらの方が余程いい。

三蔵はそばにあった木にもたれる。
煙草を吸おうかと思ったが、手を繋いだままなのでそのまま花火の上がるであろう方向を眺める。
三蔵は花火などにはそう興味はないが、そういえば悟空はほとんど見る機会などなかったはずだ。
寺院にいた頃、2〜3度長安で行われた祭りに連れて行った事はあるが、花火の上がる頃には寺院に引き上げていたし、広い寺院から街の花火は建物に遮られて見えない。
隣でワクワクしながら花火が上がるのを待っている悟空を見ると、この旅が終わった後もたまにはこうやって見に行くのもいいかもしれないと思う。

少し待っていると、やがて色とりどりの美しい花火が夜空を飾った。
「うわー……、すげえキレー……」
悟空は次々と打ち上げられる花火に見とれている。
吸い寄せられるように、悟空の足が少し前に出る。
それでも三蔵の手は離していないので、三蔵も手を前に出す形になった。

三蔵はもう片方の手で悟空の指を持って、三蔵の手を離させる。
「三蔵……?」
悟空が少し不安そうに振り向く前に。
そのまま腕を引っ張り、倒れ込んできた悟空を後ろから抱きしめる。

「……このままでも、花火は見れるだろ」
「……うん。この方がいい」
悟空の答えに三蔵はほんの少し笑みを浮かべ、悟空の視線の先にある花火を見つめる。

こんな、穏やかな時がずっと続けばいい。
悟空がすぐそばにいて、こうして2人で1つのものを見ていられる。
それだけの事が、何よりも幸せな事だともう知っているから。



また、花火を見に来よう。
2人で、こうしていつまでも見つめていよう。






END








後書き。

555HITの生瓜さとる様に捧げさせて頂きます。
ちなみにリク内容は『悟空のことが大好きで大事でしょうがない三蔵サマと、息をするより自然に三蔵を愛しちゃってる悟空、という背中がかゆくなるよーなあンまい三空』……との事でした。
……こんなんでどうでしょう、さとる様……?(←弱気だな、オイ)
三蔵様の、悟空ラブラブっぷり(笑)をなるべく出してみたつもりなんですが。(←つもりって何だ)
手を繋いで歩く2人を書きたくて、こんな話になりました。
壁紙がヘボい上に内容と関連性がなくて泣けてきそうです。
さとる様、こんなのなんですが、良ければどうぞお納め下さいませv




短編 TOP

SILENT EDEN TOP