遅刻ギリギリで教室に飛び込んだ悟空は、まだ担任が来ていない事にホッと息を吐いて席についた。
悟空の席は1列目の真ん中、つまりは教壇の真ん前だ。
この席は、普通に考えれば嫌な席だろう。
何しろ教師が目の前にいるのだから、うっかり気も抜けない。
だが、この席は悟空自身が望んで獲得した、悟空にとっては最高の指定席だった。
ガラリと扉が開く音がすると共に、今まで教室内をうろついていた生徒達が慌てて自分の席に戻る。
それを見ながら教壇に歩いていくこのクラスの担任を、悟空は眩しそうな目で見つめていた。
キラキラ光る金色の髪、綺麗な紫暗の瞳。
このクラスの担任───玄奘三蔵は、悟空が今1番大好きな人だった。
午前の授業が終わり、悟空の大好きな昼休みになった。
悟空は金蝉お手製の特大弁当──もっとも悟空にとっては普通レベルなのだが──を数人の友人達と一緒に食べ終えると、まず職員室と学食、それから数学準備室に向かった。
これは三蔵と話が出来るかも、という淡い期待を持ちつつの日課となっている。
だが、今日はその何処にも三蔵はいなかった。
あからさまな落胆を表情に浮かべつつ、悟空は仕方なく屋上に向かった。
悟空は、天気の良い日は屋上に行くのが好きだった。
何をするわけでもなく、寝転んで太陽の光を身体全体に浴びながら空を眺める。
あちこち走り回るのも好きだが、そういうボーっとする時間も意外に楽しかった。
屋上への扉を開け、寝転がるべく丁度扉の真上の高くなっている部分によじ登る。
ほぼ正方形のそのスペースにコロリと仰向けに転がると、悟空は空を見つめた。
まだ春には少し遠いが、今日は陽射しも暖かく気持ち良い日だった。
昼休みと放課後は、三蔵と言葉を交わせる数少ないチャンスだ。
元々寡黙な三蔵だから、それなりに時間がある時でないとロクに会話が出来ない。
特に三蔵は生徒人気が意外に高いため、会話すら競争率が激しい。
今日は心当たりの場所にいないところを見ると、誰かに先を越されたのかもしれない。
そう思うと、何だか無性に悲しくなってしまった。
三蔵が何処かで悟空の知らない誰かと話をしている様を想像して、悟空の眉がへの字に寄せられる。
別に付き合っているわけでも何でもない自分にこんな風に思われていては、きっと三蔵も迷惑だろうと思うと余計に切ない。
「……はぁ。何考えてんだろ、俺……」
悟空はため息をつくと、それ以上不毛な事は考えないでおこうと目を閉じた。
それから少しして、悟空が危うく眠りの淵に落ちそうになっていたのを突然の音が止めた。
それが屋上の扉を開く音だと理解した次の瞬間には、2人分の足音と声が聞こえてきた。
「だぁから、何でそうひねくれてんだよ、お前」
「うるせえ、ついてくるな。それから、勝手に肩に手を置くんじゃねえ」
「んな事、今更だろ? 俺とお前の仲じゃん?」
「気色悪い事を抜かすな! 殺すぞ!」
「……それ、仮にも教師のセリフじゃねえぞ……?」
何やら仲が良いのか悪いのか判断しかねるやり取りをしながら、その2人は屋上へと入ってきた。
上半身を起こして、入ってきたその2人を見た悟空は、ついまたその場で身を低くしてしまった。
別に隠れる必要などないのに、それはほぼ反射といっていいものだった。
もっとも、身を低くしたところで隠れるほどの場所などないそこでは、どちらかがこちらを向けばすぐにバレてしまうだろうが。
そっと頭だけを少し上げて見てみると、そこにいたのは三蔵と紅い髪の男が1人。
後姿でもすぐに分かるその特徴的な髪で、その男が世界史の教師・沙悟浄だと気付く。
どうして三蔵と悟浄が2人きりで屋上などに来ているのか、悟空は少し不安げな顔になる。
それに、こんなに口数の多い三蔵を殆ど見た事がないから余計だ。
悟空といる時は、他の一般生徒の時よりはマシとはいえ口数はそんなに多くない。
だが、今こうして悟浄と会話している三蔵を見ていると、憎まれ口を言いながらも何処か居心地が良さそうに見えた。
ふと、以前何かの折に聞こえたクラスの幾人かの女子のひそひそ話を思い出した。
───ねえねえ、三蔵先生と悟浄先生ってさー、よく一緒にいるよね〜
───うんうん、いっつも仲良さげにケンカしてるしさぁ
───あの2人、絶対アヤしいよね〜
……などと、やたらと嬉しそうに話していたのだが、その時は何バカな事言ってんだろとしか思わなかった。
三蔵も悟浄も男なんだし、怪しいも何もないじゃないかと。
だが、考えてみなくても悟空だって男である。
でも、悟空は三蔵を誰より特別に想っているし、その自覚も十分にある。
もし、もしも、彼女達の話していた事が噂の域を越えて真実に近いものだとしたら。
悟空が三蔵を想っているように、悟浄もまた三蔵に特別な想いを抱いているのだとしたら。
悟空の心臓が、ドクンと1つ大きく鳴った。
もしも悟浄が三蔵を好きなら、悟空にとってはそれは大変な問題だ。
三蔵だってまだ高校生の子供である悟空より、大人の悟浄の方が良いんじゃないだろうかとか、色んな考えが頭に浮かぶ。
まだ一方的な片想いでしかないのに、こんな事を思う事自体自惚れなのかもしれないけれど。
ただ、今まで三蔵は誰に対してもそっけなかったし、教師生徒関わらず必要以上には誰も寄せ付けなかった。
そんな中、悟空だけはめげずに毎日通っていたせいか、少しずつ態度も柔らかくなってくれていた。
注意しなければ分からないほどだったけれど、微かに笑ってくれた事もあった。
ほんの少しは、他の人達とは違う位置まで近付けているんじゃないかというような気がしていた。
それも全部、ただの自惚れだったのだろうか。
三蔵はひょっとして悟浄を好きなのだろうか。
悟空に対する態度は結局、自分の受け持っている生徒への感情でしかなかったのだろうか。
頭の中でぐるぐると疑問文が駆け巡っては消える。
いつの間にか、コンクリートについている手が震えていた。
悟空が1人で自分の思考に嵌まりこんでいる間にも、三蔵と悟浄は柵の近くまで進んで話を続けている。
「ちっ、何で俺が逃げるように屋上なんかに……」
「しょうがねえだろ? ここでもねえと迂闊に話も出来ねえんだから。また噂ばらまかれんのがオチだしな」
「名誉毀損もいいところだな」
「……そこまで言われると、俺の立場ねえんだけど」
「知るか」
「んな冷てえ事言ってっと、既成事実作って噂を本当にしてやろっかなー」
そう言うと共に、悟浄は三蔵を閉じ込める形で柵を両手で掴んだ。
その行動に、見ていた悟空は思わず上半身を起こしてしまった。
「……悟浄! てめえ、ふざけた真似をしやがると……!?」
振り返りざまの三蔵の怒鳴り声が、途中で不自然に途切れた。
その三蔵の視線は、身体の向きを変えた事で悟浄の頭の横を通り過ぎて屋上の扉の方に向けられていた。
いや、正確には扉ではなく、その上にいる人物に。
「悟空……!?」
三蔵の瞳が、驚きに見開かれる。
まさかこんなところに悟空がいるとは思っていなかったのだろう。
三蔵の呟きに、悟浄も腕はそのままに後ろを振り返った。
2人の視線が悟空に集中する。
それがまるで、邪魔をした悟空を非難しているように見えた。
もちろんそれが悟空の内心が作り出した思い込みでしかない事を、ひょっとしたら頭の何処かでは分かっていたのかもしれない。
だが、どうしてもその場にいられなくて、悟空は素早くそこから降りると校内に走り込んだ。
階段を走り降りながら、悟空は胸の辺りのシャツをきつく握り締める。
三蔵を両腕の中に閉じ込めた悟浄。
紅い髪のすぐ傍で綺麗に映える金の髪。
その様子が余りにも絵になりすぎて。
それがあるべき姿なんだと言われている気がして、胸が痛んで仕方がなかった。
自分の教室がある2階で足が止まりかけたが、今の状態で午後の授業を受ける気にはなれず、一瞬の躊躇の後に悟空はそのまま1階まで一気に駆け降りた。
そのまま校舎を出て体育館の裏まで走って、そこでようやく悟空は足を止めた。
ここならきっと誰も来ないだろう。
体育館で授業はあるかもしれないが、こちらに面した扉はないし窓も光取り用のものだけだ。
悟空は体育館の壁にもたれると、そのままズルズルと座り込んでしまった。
シャツやズボンが汚れるとか、そんな事は気にもならなかった。
悟空は膝を抱えると、俯いて顔を膝に埋める。
目を閉じると、先程の三蔵と悟浄が瞼の裏に浮かんできた。
悟空は僅かに首を上げるとパッと目を開け、首を大きく何度も振った。
今は考えたくもないのに、頭の中に浮かんでくるのは三蔵の事ばかりだ。
自分はこんなにも三蔵を好きだったのかと、悟空は今更ながらに思い知らされている気がした。
気を抜くと、じわりと涙が浮かんできそうなのを必死で堪える。
例え誰も見てなくても、仮にも男である自分がこんな風に泣くのはみっともない。
悟空のなけなしのプライドが、滲み出しそうな涙をギリギリのところで抑えていた。
予鈴に引き続いて本鈴が校内に鳴り響く。
初めて授業をサボっちゃったななどと思いつつ、悟空は何を見つめるでもなく前を見ていた。
ザリ、という土を踏みしめる音が聞こえ、悟空はハッとなってそちらを振り返る。
「あ? 何だ、先客かよ」
「へぇ〜、真面目そーなお坊ちゃんがサボりかぁ?」
如何にも『不良』という言葉がピッタリ合いそうな連中が数人、悟空に向かって歩いてくる。
悟空は彼らの目が獲物を捕らえたかのように変わるのを見て、その場で立ち上がった。
「なあ、ここでサボってるってこたあ、俺らのお仲間だろ? ちっと俺らに金貸してくれよ」
「返すつもりないくせに、貸せなんて言うなよな。第一、勝手に仲間扱いすんなよ」
キッパリと言い放った悟空に、不良達の表情が変わる。
「んだと? 1年が生意気言うじゃねえか。そんなに痛え目に遭いてえのかよ、あぁ?」
いっそマニュアル通りと言ってもいい脅し文句に、悟空は半ば呆れる。
全く怯えのカケラもない悟空の態度が余程気に食わなかったのだろう、不良達に殺気に似たものが漂い始める。
「コイツ、よっぽど酷え目に遭いてえらしいぜ。やっちまうか?」
「そうだな、先輩に対する礼儀ってモンを教えてやらねえとな」
口々に好き勝手な事を言い、不良達はゆっくりと悟空を取り囲むように移動する。
内の1人が悟空に掴みかかったのを合図に、乱闘が始まった。
こう見えて悟空は実はケンカが相当強い。
殴りかかってくる不良達をかわしながら、的確に肘や蹴りを入れていく。
次々と倒していき、最後の1人になった。
これなら確実に大丈夫だと、悟空がそう思った時だった。
「うわっ!?」
悟空は突然バランスを崩して、その場に倒れた。
殴り倒されたものの気絶していなかった1人が、悟空の足首を掴んで思い切り引っ張ったのだ。
悟空はすぐに未だ掴まれたままの足首を解放させようとするが、その前に残っていた1人が悟空の腹を蹴り上げた。
そのまま何度も続けて蹴りを入れると、少しは気が晴れたのかそこでようやく1歩引いた。
そうこうしている内に、悟空がさっき殴り倒した連中も気がついたのかふらつきながらだが起き出してきた。
「げほっ、げほっ……!」
激しく咳き込む悟空を、不良達が優越感に満ちた瞳で見下ろしている。
「けっ、ざまあねえな。ちょっとは先輩を敬う気になったかよ」
悟空を蹴り上げた男が、悟空の前髪を引っ張って顔を上げさせ、嘲笑を浮かべている。
その勝利を確信したような顔はおそらく悟空からの謝罪を期待してたのだろう。
だが、当然だが痛めつけられたくらいで悟空がそんな事を口にするわけがない。
「敬う? バカじゃねえの。アンタら敬うくらいなら、その辺の犬の方がよっぽど敬えるっての」
挑戦的に笑って言い切った悟空に激昂した不良は、悟空の髪を引っ掴んだまま地面に悟空の頭を擦りつけた。
「イイ度胸じゃねえか! そんな口きけないようにしてやるぜ!」
そう言って、今度は悟空の胸倉を掴んで殴りかかろうとしたその時。
「てめえら、何してやがる」
突然その場に響いた声に、不良の手が止まる。
殴られる事を覚悟して反射的に目を閉じた悟空も、その声に目を開ける。
「……三蔵先生」
すぐに状況を理解したらしい三蔵は、剣呑な眼差しで歩いてくる。
その眼光に危険を感じたのか、不良達は悟空を放して1歩2歩と後ろに下がっている。
「そ、そいつが悪いんスよ。後輩のクセにつっかかってくるから」
先程までのやり取りの何処をどう見れば悟空がつっかかったように見えるのだろうと思うが、この手の言い訳は常套手段なので訂正する気にもなれなかった。
三蔵はそれに対しては何も言わず、ただ恐ろしいまでの目付きで不良達を睨みつけた。
すると、不良達は互いに目を見合わせ、誰からともなく逃げ出してしまった。
三蔵は1つため息をつくと、地面に座り込んでいる悟空の傍に立って手を出した。
「……え?」
突然差し出された手に、悟空はついポカンと手を見つめてしまった。
「どうした。……立ち上がれねえほど痛えのか?」
そのセリフで悟空を助け起こすために差し出してくれているのだと悟り、慌ててその手を取った。
「あ、だ、大丈夫。全然平気! ……ありがとう、先生」
蹴られた腹が痛んで少しよろけたが何とか立ち上がると、悟空は砂や泥のついた制服をパンパンとはたく。
「……で?」
「え?」
「今は五時限目の最中のはずだがな」
「あっ……えと、その、それは…………せ、先生こそ何で?」
サボっていた事がバレて焦り、だからといって理由を答えられるはずもなくて逆に質問をし返してしまった。
「俺は5時限目は受け持ちの授業がねえんだよ」
「あ、そ、そっか……」
思わず納得してしまったが、そんな場合ではない。
三蔵の目は強く、言い逃れは許さないという風に見える。
三蔵に適当な言い訳をする事は出来なくて、悟空は黙り込んでしまった。
どうすればいいんだろうと、半ば混乱状態になる。
だが、そんな中で、ふと1つの疑問が浮かんだ。
「……三蔵先生」
「何だ」
「授業がないのは分かるけど、何でわざわざこんな所に来たの?」
授業がなくても、次の授業の準備やら何やらで結局は忙しいはずだ。
それにも関わらず、どうしてこんな体育館の裏なんていう場所に足を運んだのか。
純粋に疑問に思って尋ねてみたのだが、どうやらその質問は三蔵にとって核心に迫るものだったらしい。
不意を突かれたように目を大きく開き、その後迷うような複雑な表情になった。
「……ち、仕方ねえ……」
しばらく無言の時間が流れた後、三蔵が諦めたようにため息をついた。
「……逃げるみてえに走ってくからだろうが」
「え?」
いきなりのセリフに意味が分からなくて、悟空は聞き返した。
だが、三蔵は言葉を継ごうとはしない。
三蔵の言ったセリフを、悟空は頭の中で反芻する。
そして、ようやく三蔵の言っているのが自分の事であるという事に気付いた。
「そ、それじゃひょっとして……俺を探して……?」
三蔵から返事はないが、否定しないという事はそうなのだろう。
そう思って、とても嬉しかった。三蔵が悟空を探してくれたという事が。
でも、次の瞬間には現実的な思考が頭を掠めてその嬉しさに翳りを落とす。
「……そうだよな、担任してる生徒だもん。少しは心配にもなるよな」
単に教え子だから、様子がおかしいのを心配してくれただけなんだろう。
笑ってそう言ってみたものの、その笑顔がわざとらしいのが自分でも分かる。
こんな顔を見せて、きっと呆れられるだろう。
そう思うと、さっきの嬉しさが嘘のように悲しくなった。
これ以上変な表情を見られたくなくて、悟空はつい俯いてしまった。
「ったく……勝手に自己完結してんじゃねえよ」
その声音にさっき危惧したように呆れた色が含まれている気がして、悟空は手をギュッと握りしめた。
「……いつまで俯いてんだ。顔上げろ」
そうは言われても、今はまだ表情を上手く整えられない。
「上げろって言ってんだよ」
少し不機嫌そうな声で再度促されて、悟空はようやく顔を上げた。
顔を上げた悟空の目に映った三蔵の表情は、想像していたものとは少し違った。
確かに不機嫌そうではあるものの、何処か瞳が優しい。
その深い紫暗の瞳に、つい引きこまれそうになる。
「どうして突然屋上から逃げた?」
そう問われて、悟空は口篭もる。
「そ、それは……ほらっ、邪魔しちゃったら悪いし……」
視線を逸らしながら、悟空はわざと出来るだけ軽い声で答えた。
だが、それで誤魔化せたと思ったのは悟空だけだった。
「嘘だな」
「何で……言い切れるんだよ」
「そうやって視線を逸らしてんのがいい証拠じゃねえか。嘘の下手なヤツだな」
あっさりと見抜かれてしまい、悟空は反論が出来なくなる。
「……お前、どうしてこの俺がわざわざお前を探してたのか分かってんのか?」
「それは……俺が、先生の担任している生徒だから……」
「バカか、お前は。なら訊くが、同じ状況で俺があのクラスの他のヤツをいちいち探して回ると思うか?」
そう言われて、悟空は自分の立場を他のクラスメイトに置き換えて想像してみた。
「……思わない……」
あれくらいなら、三蔵なら放っときそうだ。
噂がまた広まるのは嫌だろうが今更だし、それよりも探し回る面倒くささの方が上回りそうな気がする。
でも、それならどうして悟空を探してこんな体育館裏まで足を伸ばしたのか。
「何で……?」
分からなくて零れた呟きに、三蔵は再び盛大なため息をついた。
「まだ分かんねえのか……。鈍さもそこまでいきゃ才能だな」
「な、何だよ! 鈍くて悪かったなっ。言いたい事あるならハッキリ言えばいいじゃんか!」
「バカ猿。ハッキリ言える事なら最初から言ってるに決まってんだろうが」
「それ、威張って言う事じゃない気がするんだけど……」
とことん偉そうに言う三蔵に、今度は悟空が呆れた顔をする。
三蔵は少しの間迷うような仕草を見せていたが、どうやら本当にハッキリ言わないと悟空には分からないと判断したのだろう、ゆっくりとだが口を開いた。
「……俺はあの場にいたのがお前だから探した。それはさっき分かったな」
「うん……」
「つまり、俺にとってお前は他のヤツらとは違う……そういう事だ」
それだけ言うと、三蔵は口元に手をやって横を向いてしまった。
その顔がほんの少しだが赤い気がする。
三蔵の言った事を何度も頭の中で繰り返して、悟空は1つの結論に至った。
「それって……俺が、三蔵先生の特別な存在って……事……?」
「他にどんな解釈がある」
そんなそっけない口調ですら、今の悟空には十分過ぎるくらい嬉しかった。
悟空の顔が、見る見るうちに明るくなっていく。
余りに嬉しくて、つい悟空はその気持ちのままに三蔵に抱き付いてしまった。
「なっ……!」
不意を突かれたらしい三蔵は、珍しく少しうろたえているようだ。
「俺、すっげえ嬉しい……! ずっと、鬱陶しがられてるんじゃないかって怖くって……」
「最初は確かに鬱陶しかったな」
「え……そ、そうだったの?」
「まあな。だが、あんまり毎日来るもんだからその内慣れちまったが」
「へへ、じゃ、俺の粘り勝ちだ」
「……そうかもな」
ポンと頭の上に置かれた手がくすぐったくて、悟空は三蔵に掴まっている手にギュッと力を込めた。
校内にチャイムが響く中、もう少しだけこうしていられますようにと。
後書き。
学園もの第2弾。ですが、前の「Lesson1」とは設定違うのでシリーズではないです。
今回のお話のコンセプト。それは『青い春』(笑)
タイトルからして何ともむず痒いですしね!(←開き直るなよ)
学園ドラマの王道の展開を目指してみたつもりなんですがどうでしょうか。
如何にもな不良達も出してみました。如何にもすぎて「今時いねえよ!」とツッコまれそうです。
ちなみに悟浄先生は屋上に放置されました。可哀想です。報われません。ごめんなさい悟浄。
八戒先生も出したかったですね〜。さぞ腹黒……もとい、楽しい活躍をしてくれそうなのに!
これから三蔵先生と悟空は付き合い始めるわけですが、前途は多難だと思います。(オイ)
いやだって、八戒いるし過保護者金蝉はいるし、ねぇ……。