れっつ豆まき!



「なあなあ三蔵〜! 豆まきやろ?」
丘での休憩中、傍に寄ってくるなり言い出した悟空に、三蔵は新聞を置いてため息をつく。
「またあいつらに妙な事吹き込まれやがったのか」
「妙な事じゃないですよ、ねえ悟空?」
悟空の後ろから、ニッコリと笑みを浮かべつつ八戒が歩いてくる。
その更に後ろには悟浄がいるが、こっちはむしろ『連れてこられた』という感じである。



───今日は2月3日。
いわゆる、節分である。



「いいじゃんか、三蔵。こんな旅してるんだしさ、厄払いくらいしとこうよ」
そう言う悟空は、既に豆を持ってスタンバイしている。
見ると八戒もしっかり豆の入った升を持っている。
……こうなると、三蔵に最早拒否権はないに等しい。




抵抗も空しく、結局豆まきをする事になってしまった。
「さて、豆まきをするなら、当然鬼が必要ですよね?」
明らかに三蔵と悟浄の方を見ながら、八戒は切り出す。
「鬼? いなきゃダメなの?」
悟空が首を傾げている。
「もちろんです。豆まきに鬼がいなきゃ始まりません」
横では三蔵と悟浄が「んなワケねえだろ」的視線を送っているが、それはもちろん無視である。

そして、そこで問題になるのが『鬼』の人選である。
八戒が鬼をやるとは思えない。というか、八戒が鬼役をしたら恐怖である。
かといって、悟空に鬼、というのは似合わない事この上ない。(それ以前に八戒がやらせるはずがない)
となると、残るは2人。
三蔵と悟浄の間に、緊張が走る。
鬼役になったら最後、(八戒に)どんな目に遭わされるか分かったものではない。
何としてでも、それだけは避けたい。
……2人の間の空気が不穏さを増してきたその時、4人は気配を感じ、一斉に振り向いた。




「……焔!!
そう、そこに立っていたのは闘神・焔だった。
「ふ、久し振りだな、孫悟空……」
聖龍刀を肩に担ぎ、悟空だけに向かって笑みを浮かべる焔。
「……決定じゃねえ?」
「……だな」
「……ですね」
悟浄、三蔵、八戒の呟きなど、焔には全く聞こえていない。

「どうした? 向かってこないのか?」
焔はあくまで悟空に視線を固定している。
悟空が焔に向かって足を踏み出そうとした時、ポンッと八戒の手が肩に置かれる。
「八戒?」
「悟空、あれが鬼ですよ。思いっきり投げて下さいね」
そう言いながら、八戒は悟空にそっと手渡す。
「……鬼って焔が? っていうか、これ、何?」
「何って、もちろん節分用福豆ですよ。ちょっと僕が改良してますけど」
「豆……? これ……?」
悟空の手の中にあるもの。確かに、外見は豆だろう。
ただし、直径が1メートルは確実にある巨豆である。
果たしてこれが何処から出現したのか、それは永遠の謎としか言いようがない。
「これ、結構重いんだけど……」
「大丈夫ですよ、悟空なら。さ、厄払いです。思い切りいっちゃいましょう!」
「分かった! よぉぉし……」
悟空は巨豆を持ち、大きく振りかぶって(?)焔に向かって投げつけた。

ギュルルルル……という音と共に巨豆は焔に一直線に向かっていく。
さすがは悟空。コントロールばっちりである。
「何だ、孫悟空。俺に贈り物か?」
だが、ズレた言動をしていても、やはり神。
何と、悟空の渾身の一球……もとい一豆をあっさりと受け止めてしまった。
だがその次の瞬間。



ちゅどぉぉぉん!ドゴドゴドゴォォォォン!



「……ははははははっかい!? あれって!?
悟空は慌てて八戒の方を見る。
「いやあ、良い具合に弾けましたねぇv」
八戒は何だかとってもご機嫌である。
「……っつーかよ、『八戒特製豆』って時点で俺は予感してたけどな……」
爆発による煙がもうもうとあがるのを見ながら、悟浄は妙に悟った目をしている。
「……爆発音が1つじゃなかったようだが」
「ああ、幾つかの爆弾を連鎖させてたんですよv
 1つだけじゃ仕留められな……もとい、楽しくないでしょう?」
三蔵の質問に、八戒はさも当然のようにさらりと答える。
……恋敵にはとことん容赦のない男・猪八戒。



焔の事は正直どうでもいい三蔵であるが、ある疑問を抱かずにはいられなかった。
『焔が来なければ、あの巨豆爆弾は誰に使うつもりだったのか』と……。







終劇。








後書き。

久々に出ました、バカ話(笑)
ついさっき節分の事を思い出し、即興で書いたお話です。
ので、非常に短いです。しかも内容妙です。
いや、それよりも初書き焔がこれっていうのはどうよ、私……。
ほむほむ……すっかり変な人に……。ごめん、焔……。




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