「ご、悟浄! 僕、すっご────く、重大な事実を知ってしまったんですがっ」
突如八戒に部屋に引き摺り込まれた悟浄は、八戒の真剣な顔に、こちらも表情が引き締まる。
八戒がこんなに慌てるなんて、余程の事に違いない。
「重大な事実って何なんだよ!?」
「あの、実はですね……」
八戒は悟浄の耳元に口を近づけ、囁くように爆弾発言をかました。
「実は……三蔵は……女性だったんですっ」
「………………は?」
思わず間抜けな声をあげてしまってから、悟浄は笑い出す。
「はっははは! 八戒、マジ顔で何言い出すかと思ったら……! んなワケねえじゃねえかよ」
「本当ですってば! 僕、見たんですから!」
「見たって何をだよ」
「三蔵の上半身裸です」
「……何でんなモン見てんだよ」
三蔵に想いを寄せている悟浄としては、今の発言は面白くない。
「さっき部屋を訪ねたら三蔵がシャワーを浴びてまして、声を掛けようとした時に扉の隙間から見えちゃったんです。
胸にサラシを巻いている三蔵が! ……ちゃんと谷間がありました……」
「……冗談だろ?」
「こんな冗談、いくら何でもバカバカしくて言えません!」
確かにそうである。冗談にしてはバカげている。
しかも、八戒の慌てぶりは相当のものだ。パニック寸前である。
「マジ……?」
「マジです! なんなら、確かめてきて下さい」
「って、どうやってだよ!?」
「今夜は悟浄と三蔵が同室でしょう? どうとでもなりますよ。それに……」
「それに?」
「三蔵が女性だという事はですね、悟浄との間に障害はなくなるという事ですよ!」
「!!」
「頑張って下さい、悟浄。そのために、僕は真っ先に悟浄にお知らせしたんですから」
「……お、おう!」
何だか乗せられているような気がしたが、悟浄はそのまま自分と三蔵の部屋に戻った。
ベッドに腰掛けながら新聞を読んでいる三蔵を、悟浄はちらちら盗み見る。
確かに、三蔵は綺麗だが……いくら何でも『女』という事はないだろう、と思う。
しかし。
実際、悟浄も三蔵の裸など、上半身だけでも見た事がない。
いつも大浴場があろうがなんだろうが、三蔵は個室の風呂に1人で入る。
なまじ風呂好きと知っているだけに、その点は不審と言えない事もない。
加えて、あの細腰と白い肌、男にあるまじき色気。
だんだん、女であるという事への反論材料が少なくなっていく。
……考え込んでいても仕方がない。
見せろと言って見せる性格じゃないのは百も承知。
であれば……実力行使あるのみ。
悟浄が三蔵のいるベッドに近付いていくと、三蔵が鬱陶しそうに顔を上げた。
「……? 何だ、エロ河童。邪魔すんじゃ……なっ……!」
悟浄は三蔵の両手首を取ると片手で掴みあげ、ベッドに押し付けておき、法衣を一気にはだけさせる。
そして、問題の黒のアンダーを一気に捲り上げた。
……が。
「あ、あれ……?」
そこにはどう見ても男の胸。当然サラシなどない。
そしてベッドヘッドにある備え付けのカレンダーを見て固まった。
4月1日。
「……やられた……」
悟浄はガックリと肩を落とす。
「……てめえ、そんなにあの世が恋しいか……?」
三蔵が殺気に満ち満ちた視線で悟浄を睨みつける。
そこで悟浄は今の状況に気が付いた。
ベッドの上。上半身をはだけさせた三蔵を組み敷いているという、実にオイしい……もとい、危険な状況に。
余りのシチュエーションに悟浄が妙な気を起こし始めたその時!
「なあ、三蔵〜! 八戒が言ってたんだけど、明日さぁ……」
ガチャリという音と共に、最悪のタイミングで悟空が入ってきた。
ピシリ。
音を立てて、その場の空気が固まった。
「さ、三蔵……。悟浄とそういう関係だったんだ……?」
「な、何!? ちょ、ちょっと待て……!」
「俺、俺、信じてたのに……」
「ま、待て! 誤解するな、これは違……!」
「うわぁぁん! 三蔵の浮気者ぉぉぉ! 俺も、俺も八戒と浮気してやるぅぅぅぅぅ……!」
エコーを残しながら悟空はダッシュで走り去っていってしまった。
「おい待て悟空! 早まるなっ……!」
叫んだものの、既に悟空は影も形もない。
「あ〜あ……」
ポツリと呟いた悟浄の一言に、三蔵のこめかみが引きつる。
「ほう……、誰のせいだか分かってんだろうな、クソ河童……」
三蔵の眼に満ちる殺気はかなりマジである。
「今すぐ死ね! この腐れ河童がぁぁぁ!!」
ガウンガウンガウンガウンガウン!!
「ぎゃあああ! 死ぬ、マジで死ぬー!」
一方その頃。
「八戒ぃ……。三蔵が悟浄と浮気したぁ……」
「可哀想に、悟空……。大丈夫ですよ、悟空には僕がいますからねv」
八戒の真の目的が何であったのかは、言うまでもない……。
後書き。
節分と同様の突発駄文です。
すっかり忘れてました、エイプリルフール。
ので、1日遅れました。
去年は覚えてたのに……。だんだん物忘れ激しくなっている自分が怖い今日この頃。
これも30分程で書いたので、矛盾点あっても気にしないで下さい。声とかね(笑)
慌てふためく三蔵と、誤解しまくり悟空のやり取りが、書いてて1番楽しかったですv