Let's work!




  ──エピローグ──


ウエイターの仕事をクビになってしまったため、4人は宿へと帰ってきていた。
それでも、店主の広い心のおかげで、物資の補給くらいは賄えそうである。

だがしかし。
だからと言って、八戒の説教を食らわずに済むかと言えば……そんな訳はない。
案の定、部屋に引き上げた三蔵の部屋のドアがノックされる。

“開けたくない”
そう思ったものの、八戒から逃れられるとは思えない。
覚悟を決めた三蔵はゆっくりとドアを開けた。

そこに立っていたのは、コワイくらいに優しげな笑顔を貼りつけた八戒だった。
「ああ、三蔵。疲れている所をすみません。ちょっと話があるんですけどいいですか?」
イヤとは言わせない、と後ろに見えるオーラが物語っている。


一方その頃。
悟浄と悟空は食堂にいた。
「なあ、悟浄。八戒は?」
目の前に並んだ食事を瞬く間にたいらげながら、悟空が尋ねる。
三蔵が部屋に戻ったのは知っているが、八戒はさっきから姿が見えない。
「……三蔵の部屋だろ」
悟浄がちょっと哀れむような口調で答える。
悟空に食事を用意していったのは八戒だ。
おそらく、三蔵と話(?)をしている間、悟空を足止めする為だろう。

「三蔵の部屋? 何で?」
「……さあな。今後の事について話してんじゃねえ?」
確かに嘘ではない。今後の資金について話してはいるだろう。
ただ、それだけで済むはずは絶対にないのだが。

悟浄は、悟空を三蔵の部屋に行かせるかどうか迷っていた。
悟空が行って説得すれば、八戒も引き下がらざるを得なくなるだろう。
八戒は悟空にとことん甘いし、弱い。
だが、そんな事をすれば矛先は間違いなく悟浄に向く。
それはすごくイヤなのだが……三蔵を助けてやりたいとも思う。

しばらく考え込んでいた悟浄だが、ようやく決心を固めたようだ。
「……悟空。三蔵の部屋、行って来い」
「え? 何だよ、急に」
悟空は不思議そうに悟浄を見ている。箸を動かす手は止めていないが。
「今、三蔵は八戒に説教食らってるはずだ。……止めてこい。
 早くしねえと、大事な三蔵様が八戒の攻撃で立ち直れなくなるぜ?」
「八戒の攻撃? 何言ってんだよ、八戒優しいじゃん」
「……お前限定でな。いいから行ってこいって。三蔵の為だぜ?」
三蔵の為と言われては、悟空も行かないわけにはいかない。
席を立って、三蔵の部屋へと駆けていく。


「……本当に分かっているんですか、三蔵?」
三蔵はあれから延々と八戒の説教を聞かされ続けていた。
いい加減解放して欲しいのだが、この調子ではまだ続きそうだ。
最初の方こそ言い返していたものの、今ではもうその気力すらなくなってきている。
どうにかしてこの場を何とかできないかと、三蔵がぼんやりと考えていた時。

コンコン。

「なあ、三蔵、八戒。入るよ?」
悟空の声が聞こえ、それとほぼ同時にドアが開かれて悟空が顔を出す。
「悟空。どうしたんですか?」
八戒が、さっきまでとは180度違う優しい声で尋ねる。
「……八戒、怒ってんの、三蔵の事……?」
悟空が眉を少し寄せて、悲しそうな瞳を八戒に向ける。
「え、いえ、そういう訳では……」
八戒が珍しくしどろもどろになる。
悟空の無意識の『八戒説得モード』は、かなり高い効果を上げているようだ。

「銃撃ったのは確かに良くないけどさ、あの親父だって悪いんだし……。
 そばにいた俺にも責任あるし……許してもらえないかなぁ……」
悟空が俯きながら、一生懸命に三蔵を弁護している。
八戒としても悟空のこの姿を見ると、怒る気すら失せてきてしまう。

「……悟空、大丈夫ですよ。別に三蔵を怒っているわけじゃありませんから」
「……ホント?」
「ええ。ただ、これからは気を付けて下さいね、って話をしていたんですよ」
三蔵は心の中で『……あれがか?』と思ったが、折角丸く収まりそうなので蒸し返すような事はしなかった。
これでこの場は何とかなりそうである。

「じゃあ三蔵、僕は失礼します。本当に控えてくださいね」
八戒が意外にあっさりと引き下がり、部屋から出ていく。

「……おい、悟空」
「ん? 何、三蔵?」
「何でここに八戒がいるって分かったんだ」
三蔵は感じた疑問をそのまま口にする。
この部屋に来てノックをした時、悟空は三蔵と一緒に八戒も呼んだのだ。
八戒が悟空にそんな事を言う訳がない。結果は見えている。

「ああ、悟浄がさ、八戒が三蔵の部屋で三蔵に説教してるから止めてこいって」
「悟浄が?」
どうして悟浄がそんな真似をするのか。
八戒の攻撃の矛先が自分に向くくらい、バカでも分かるだろうに。

……ここまでしても、気付いてすらもらえない……。哀れである。
だが、悟浄の身に不幸が降りかかるのはむしろこれからだ。

「あ、悟浄。こんな所にいたんですねv」
八戒がにこにこと笑いながら悟浄に近付いていく。
……頑張れ、悟浄。健闘を祈る。






END








後書き。

4人それぞれの1人称、なんてのに挑戦して、あえなく玉砕しました……(泣)
難しい、難しすぎるっ……! すみません、もうしません。
八戒のなんか、1人称というよりも『実況生中継』って感じになってしまってます。
それにしても悟浄……報われない……。悟浄もいつか幸せにしてあげねば!



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