あと一匹!
は、ナイフを構え直す。
最後の妖怪が襲い掛かると、
はその攻撃を避け、妖怪の急所にナイフを突き立てた。
妖怪が息絶えたのを確認すると、はゆっくりと近くの木にもたれかかる。
こんな事も何時の間にか日常になってしまった。
懐から小さな宝玉を取り出し、ため息をつく。
が暮らしていた孤児院。
その孤児院はその町の寺院が建てた物で、寺院のすぐそばにあった。
町の皆も優しくて、とても幸せだったのに。
突如襲ってきた妖怪達が、全てを壊してしまった。
その妖怪達が襲ったのは、寺院。
そこに納められている至宝の宝玉を狙っての事だった。
息も絶え絶えに若い僧が、孤児院に逃げ込んできた。
「この宝玉を、西の『創邦』という街の寺院にいる大僧正に……」
そう言って、僧は意識を失い、そのまま永遠の眠りについてしまった。
寺院の僧達を惨殺した後、妖怪達は孤児院をも襲った。
結局、逃げ出せたのは1人だけだった……。
あれから何度も妖怪に襲われた。
どうやら宝玉を持っている事が、妖怪達には分かるらしい。
こうしてが生きているのも、昔からやっていた体術と強運のおかげである。
……時々、どうでも良くなる時がある。
こんな風に命を狙われてまで、守り通す価値のあるものなのか、には分からない。
しかし、投げ出してしまうのも癇に障る。……逃げたようで。
が未だこの宝玉を持っているのはその為だ。
ふと、空気が騒いだ。
「……また新手なの? 何処から湧いてくんのかしら」
さっと身構えると、案の定幾人かの妖怪が姿を現した。
「へっへっ、アンタいいもん持ってるだろ。俺達に恵んでくれよ」
「……バカじゃないの? そんなお人好しがいたら、お目にかかってみたいもんね」
妖怪達の視線に殺気がこもる。
まさに妖怪達がに襲いかかろうとした、その時。
車の大きなエンジン音と、騒がしい複数の男の声、それに銃声が立て続けに聞こえた。
何事かと、その場にいた全員がその方向を向く。
その視線の先には、こちらに向かって疾走してくるジープ。
こちらに気付いたのか、速度を緩める。
……まあ、先程の妖怪の死体も合わせて、思い切り通行を邪魔してしまっているのだから仕方がない。
そのジープは達の目の前まで来て、ようやく止まる。
「あの〜、道の真ん中で何してらっしゃるんですか?」
「さっさと退け。邪魔だ」
「おいおい、三蔵様ってばよ。美人が襲われてんのにそりゃないんじゃねーの?」
「おい、てめえら、何やってんだよ!」
ジープに乗り込んでいる4人が、口々にバラバラな事を言う。
あっけに取られていた妖怪達も、ようやく我に返ったのか4人に食って掛かる。
「うるせえ、てめえらには関係ねえだろ! ぶっ殺されてえのか?」
このセリフに、4人の表情が変わる。
「へぇ〜、殺すんだってよ、俺達を」
「それはすごいですねえ」
「……雑魚妖怪が」
それぞれの口調と、目に宿る危険な光がやけにそぐわない。
「なあ!」
「え、な、何?」
唐突に話しかけられ、は驚きながら、何を言われるのかと少し不安になる。
「こいつらに襲われてんの?」
「え、ええ、まあ……」
「ふうん、そっか。でも、大丈夫だから。心配しなくていいよ」
4人の中で一番小柄な少年が笑いながら言う。
「あ、てめ、何1人でオイシイとこ取ってんだよ! 美人守るのは俺の役目だろ!」
「別に誰でもいいじゃん。悟浄なんかシタゴコロしかないくせにー」
「んだと? せめて漢字で言え、食物吸引機猿!」
場の空気を無視してケンカを始める2人に、存在を忘れられかけていた妖怪達が襲い掛かった!
……まさしく秒殺である。
あっという間に、襲ってきた妖怪達は全滅してしまった。
その余りの強さにさすがにも少々面食らってしまう。
「おい、大丈夫か?」
先程『悟浄』と呼ばれていた青年が、歩み寄ってくる。
「あ、はい。大丈夫です。……ありがとうございました」
「いいっていいって。美人が襲われてんの、黙って見てられないし?」
「……おい」
法衣を着た金髪の青年が、に向かって声を掛ける。
「……そっちに転がってる妖怪共はどうしたんだ」
「あ、これは……一応……私が……」
「え!? あなたが倒したんですか!?」
翠色の瞳の青年が、心底驚いたように言う。
「へぇ〜! すっげえ強いんじゃん?」
「いえ、そんな事ないですけど……」
「で、襲われた原因はアンタの持っているソレか」
金髪の僧──三蔵がの胸元を指す。
「……分かるんですか?」
「当たり前だ。それだけ強いエネルギーを発していればな」
には今いちよく分からないのだが……。
「何故そんなものを持っている。……何者だ」
「それは……」
は少し迷ったが、言わずに済ませられる相手には見えなかったし、特に敵意も感じなかったのでここ数ヶ月で自分にあった事を話してみた。
「……ふん、なるほどな。そういう事か」
「え?」
「『創邦』の大僧正の事は聞いた事がある。随分と強い法力を持っているそうだが……」
「三蔵、どういう事ですか?」
『三蔵』と呼ばれた青年は、しばし考えた後、口を開く。
「……おいアンタ、『創邦』までどうやって行く気だ」
「え、どうやってって……」
「歩いて行くつもりじゃねえだろうな。そんな事してたら3〜4年かかっても着かねえぞ」
「えぇっ!? そんなに遠いんですか!?」
「……知らないで行くつもりだったのか?」
そんな事を言われても、ただ西にある街だというので行く先々で聞きながら来ていたのだから、そこまで知る訳がない。
三蔵は、完全に呆れた視線を送っている。
「三蔵、その街って通ると遠回りになっちゃうんですか?」
「いや、ほぼ通り道だろう」
「じゃあ、えーっと……お名前、教えてもらえませんか?」
「あ、はい、申し遅れました。私、といいます」
「じゃあ、さん、その街まで僕達とご一緒しませんか?」
その申し出に、は驚いてしまった。
何しろ、彼らから見れば得体の知れないはずの自分との同行を申し出てくるとは思わなかったのだ。
「あ、いいじゃん、それ。ジープももう1人くらいなら乗れるし?
これで女っ気の全くないむさくるしい旅から開放されるぜ♪」
「おい、何勝手に決めてやがんだ!」
三蔵がいい加減にしろといった感じで割り込む。
「なあ、別にいいじゃんか、三蔵。こんなトコに置いてっちゃったら可哀想だよ」
悟空の一言が、どうやら決定打になったようだ。
「……ち、勝手にしろ」
「決まったみたいですね。あ、まだ名前を名乗ってなかったですね、すみません。
僕は猪八戒です。これからよろしくお願いします、さん」
「沙悟浄だ。だったよな。ま、仲良くやろうぜ」
「俺、悟空! よろしくな、!」
「……玄奘三蔵だ。おい、とか言ったな。……後で後悔しても知らんからな」
の前途多難な西への旅が、始まった。
END
……すみません、まず謝ります。
最後しか名前呼ばれてないじゃんか! 意味ねぇぇぇ!
……と、思われた方、相当いらっしゃるんじゃないかと……。
出会いから書こうとするからこんな事になるんですよね(泣)
でも、それなりの設定はやっぱり欲しかったので書いてしまいました。
もし次を書くような事になれば、もうちょっと4人に名前を呼ばせたいとは思ってるんですが……。
万が一「続きが読みたい!」と仰ってくださる方がいて下されば、書きたいと思います。