Conflict 〜勘太郎サイド

キミの封印を解いてから、何ヶ月が経っただろう。

ずっとずっと、子供の頃から憧れ続けた鬼喰い天狗。
そのキミが、今此処にいる。
その事がどんなに嬉しい事か、キミは知ってるんだろうか。

キミの封印を解いて名前をつけられる、それだけの法力を身につけるために修業をした。
ただ、キミに逢いたかった。
何年も何年も探し続けて、やっと見つけたんだ。
だから、キミを離したくないと思うのは当然の事でしょ？

ねえ春華。
ボクがいつも一緒にいること、そんなにイヤかな？
イヤじゃないよね？　だって、いつも文句を言ってても来てくれるもの。
本当にイヤだったら、来てくれないよね。

それでも、キミが来てくれることを知ってても。
キミを連れ出す時は、いつも少し怖いんだ。
今度こそ拒絶されたら。
そう思うと怖くて、でもそれを見せたくないから平気なフリしてキミの手を強く引くんだ。

怖いと思うのはきっと、ボクがキミの『主人』だから。
ボクはね、ちゃんと知ってるんだよ。
キミがボクと一緒にいてくれて、ボクのお願いを聞いてくれるのは…………ボクが『主人』だからだってこと。
『主人』じゃなかったら、キミはボクのことなんてどうでもいいんだ。

それを知っているから、ボクは尚更キミを名前で縛り付ける。
名前の効果を使えば、キミはボクに逆らえないから。
危険な目に遭わせたいワケじゃないから、相手と対峙してる時には呼ばないけれど。
それでもボクを助けてくれるキミに、ムダな期待を抱いてしまう自分は結構おめでたいと思う。

でも、最近は特に不安になるんだ。
だってキミが、覚えていない過去を気にし始めたから。
思い出して欲しくないなんていうのは、ボクの勝手なエゴ。
分かってても、キミには今のままでいて欲しいんだ。
昔の春華に戻ってしまったら、今以上にキミがボクから離れてしまいそうだから。

もしもキミが記憶を取り戻してしまったら。
そして、ボクから離れていってしまったなら。
ボクはどうすればいいんだろう。

春華。
行かないでよ。
ただの『主人』でもいいよ。キミがいてくれるんなら。
鬼が喰えないなんて、そんなことどうでもいいじゃない。
こんなこと言ったら「勝手なこと言うな」って怒るかもしれないけど、ボクにとってはそうなんだよ。
鬼が食べれようが食べれまいが、ボクは春華がいてくれればそれでいいんだから。

ボクの大好きな鬼喰い天狗の春華。
でもね、ボクは最近思うんだ。
封印を解いた鬼喰い天狗が春華じゃなかったら、きっとボクはこんなに好きにはならなかったんだ。
ボクの目の前に現れたのがキミだったから。
だから、ボクは今、こんなにキミの事が大好きなんだよ。

キミがボクを主人としてしか見てないと知ってても、ボクはキミが好きなんだ。
あれだけ態度に出してるんだから気付いてるでしょ？
でもキミの態度は変わらないから、ボクは何も言えない。
ハッキリと言葉に出してしまったら、全部壊れてしまいそうで怖くなるんだ。

だから今日もボクは強がって、キミを無理やり引っ張って連れて行く。
平気なフリして笑って、キミをボクの元に繋ぎ止める。
ボクが主人でいる限りキミが傍にいてくれるなら、ボクはキミの主人であり続ける。
どんなに強い人間にも負けないように、法力を磨き続ける。

そうしたら、いつか……いつか、キミの心はボクを見てくれるかな。
遠くを見つめるキミの目は、ボクを映してくれるんだろうか。
遥か遠い過去よりも、目の前にあるはずの今を。

ねえ、ボクは待ってるよ。
キミがボクを見てくれるのを。
人間のボクは妖怪のキミよりずっと短命だけど。
それでも、その短い命の中で待ってるから。

だから、ずっとここにいてよ。
その『いつか』が来る日まで。

END

後書き。

何と言いますか。まず一言。…………恥ずかしいぃぃ────！！
記念すべき「tactics」駄文第一弾がこれですか。私ってヤツは！
やっぱり一人称なんて私などが書くもんじゃないと思いました……。
この勘ちゃん、すっかり乙女ちっくモードに入ってますね（汗）
おかしい、勘ちゃんはもっと腹黒……げほげほ。
春華ラブな勘ちゃんが書きたかったんですけど、微妙に方向がズレている……。