王子と姫君



 ─ 序章 ─



海に囲まれた大陸に広がる国・アゼルプラード。
他国の侵略などもなく、平和で穏やかな国。
そんな国に、世継ぎが誕生しようとしていた。

元気な産声が聞こえると同時に、国王をはじめ周りの側近たちの間からも安堵の息が漏れる。
「陛下! おめでとうございます!」
「ああ、これで一安心だ」
明るい雰囲気に包まれたそのとき、ひとりが気付いたように声を上げる。

「待ってください! ……何か、おかしくありませんか?」
何のことかと、周りの者たちはその人物を見る。
「産声をよく聞いてください……」
そう言われ、その場にいた者たちが皆黙って産声に聞き入る。

元気な産声。
しかし、確かにそこには違和感があった。

「……ふ、ふたり!?
そう、産声は────ふたつ重なり合って響いていた。
それまで和やかだった雰囲気が一変し、緊張した空気が張り詰める。

「双子……双子の、御子……」
ポツリと呟かれた言葉が、重くその場にのしかかった。





『双子の御子』
それは、アゼルプラードに古くから伝わる災いの象徴だった。
「双子の御子は、国を破滅に導く」
国の創成期から受け継がれていた言の葉。





産まれたのは、王子と王女。
双子の御子たちをこのままにしておいては、国の存亡に関わる。
だが、いくら国のためとはいえ、臣下たちもどちらかを殺せ、などとは言えなかった。
自分たちが敬愛する国王と王妃が、どれだけ御子の誕生を待ち望んでいたかを知っているからだ。

「……平和に暮らす民のためにも、この国を滅亡に追いやるわけにはいかない」
「陛下!」
搾り出すような国王の言葉に、隣にいた王妃が声を上げる。
「まさか……あの子たちのどちらかを……」
そんなことは出来ないという想いが、その声には含まれていた。

王妃や臣下たちが固唾を呑んで見守る中、国王が再び口を開いた。
「『災いの双子』とはいえ、愛しい我が子たちだ。殺すなどという真似は出来ん」
その言葉に、その場にいた皆が息をつく。
「それでは、どうなさるのですか?」
「『双子の御子』が災いになるというなら、片方を『御子』でなくせば良いのではないか」
どういうことなのかと、国王に視線が集まる。
「王族としての身分を捨てさせ、ひとりの民として生きさせる」
「それで……上手くいくでしょうか」
身分を捨てさせても、双子は双子。
災いを避けることは出来ないのではないか。

「ただの悪あがきかもしれん。だが……赤ん坊を殺さねば存続できない国に、価値はあるだろうか」
国王として、国は守りたい。国を守ることは、民を守ることにもなるからだ。
しかし、こんな産まれたばかりの赤ん坊を犠牲にすることが正しいとは思えなかった。

「陛下」
王妃の声に、国王は振り向く。
「私は、陛下のご判断を信じます。きっとそれが、最良の道だと」
「我々も同じ気持ちです、陛下!」
臣下たちが、声を揃える。
「……ああ、ありがとう……」
そう答えながら、国王は手放さなければならない我が子に思いを馳せた。



結局、世継ぎとして必要な王子を残し、王女を街へと下ろすことになった。
王女を抱く女官に、王妃が声をかける。
「どうか……どうか、この子をお願いね」
「はい。お任せください、王妃陛下。私の全てをかけまして、姫様をお育て致します」
女官は力強く、そう答えた。







それから、16年の歳月が流れた。
「ありがとうございました!」
品物を受け取った客を見送り、少女はひとつ息をついた。

2年前に他界した母から引き継いだ、この仕立て屋。
最初はかなり苦労したが、ようやく仕事にも慣れて固定客もついた。
今は何とか生計を立てられる程度の収入は得られている。

ガラリと引き戸が開く音が聞こえ、少女は反射的に笑顔を向ける。
「いらっしゃいませ!」
そう元気良く迎えた相手は、客ではなかった。

「よ、マリーベル」
手を上げて挨拶をしたのは、ひとりの少年。
「ベルカ!」
そう……時折変装で身分を隠して訪ねてくる、この国の王子だった。






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Twitterで話に出た双子パラレルネタです。(元ネタツイートは完結後の後書きで)
なんか壮大な物語とかは別に始まりません。ただのリンベルです。
不吉な双子の王族ってときめきトゥナイトかよとかツッコまない。



2011年5月18日 UP




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