「おやすみ」
伝えたかった事を伝えて気が抜けたのか、悟空はそのまま布団に倒れ込むように眠ってしまった。
余程眠いのを我慢していたのだろう。
掛け布団の上に眠り込んでしまっている。
「……掛け布団の意味がねえじゃねえか」
三蔵はベッドから下り、悟空を抱き上げて一旦自分のベッドに寝かせる。
そうして悟空の布団の掛け布団をめくって、再び悟空を抱き上げて布団に寝かせた。
すやすやと無邪気な顔で眠る悟空。
安心しきったその寝顔に、時々苛立つ時もある。
こちらの気も知らないで、という甚だ勝手な苛立ちなのではあるのだが……。
掛け布団を掛けてやり、布団の横に座る。
指先で軽く前髪に触れると、悟空がほんの少し顔を動かした。
「……う〜……ん、さんぞ……」
起こしたのかと思ったが、どうやら寝言らしかった。
今、悟空はどんな夢を見ているのだろう。
三蔵の名前を呼んだという事は、やはり三蔵の夢だろうか。
その事に、嬉しさを覚えてしまう自分。
どんどん、悟空は三蔵の心の中に入り込んできている。
今の悟空にとっては、世界の全てが三蔵だけだ。
寺院内の僧達は悟空を煙たがっているし、街にも三蔵と一緒でなければ余り出掛けない。
三蔵だけを追い、三蔵だけを慕う。
だがいつかは、そうでなくなる。
成長するにつれて、外の世界にも触れるようになるだろう。
三蔵以外にも、その明るい笑顔を惜しげもなく向ける日が、必ず来る。
その時、三蔵はどうするのだろうか……。
「……ふん、くだらねえ」
今からそんな事を考えても仕方ないと分かっている。
悟空がゴロリと寝返りを打ち、掛け布団を跳ね飛ばした。
「……風邪引いて、明日寝込んでも知らんぞ」
そう言いながら、三蔵は再び掛け布団を直してやる。
その時見えた、悟空の幸せそうな表情に瞳が惹きつけられた。
惹かれるそのままに、三蔵は悟空の頬に軽く口付けを落とす。
「……誰が現れようが、おまえの居る場所はここだけだ」
そう、それ以外の場所など認めない。
どれだけ悟空の世界が広がろうと、帰る場所は一つだけだ。
もしも、おまえが他の場所を選んでも。
俺はきっと連れ戻すだろう。
それが、許される事ではないと分かっていても。
おまけ後書き。
三蔵様1人語り的なオマケです。ポイントは『ほっぺにチュー』(笑)
頬にキスするのって可愛らしくて好きです。何だかあんまり生々しくないし。
悟空の無邪気な寝顔見てたら、ウチの三蔵様の場合、とても唇にはいけませんねv
もうすっかり心が悟空に捕まっちゃってます。
悟空がいなくなったら、世界中を捜し回ってでも見つけ出しそうです。