小さく寝息を立てる悟空を見ながら、その頭をゆっくり撫でる。
いきなり部屋を訪ねてきて、一緒に寝かせて欲しいなんて言い出した時は正直三蔵も焦った。
自分の理性に自信が持てなくなりそうだからだ。
昔ならともかく、今こうして2人で同じベッドで眠るという事は、三蔵にとって相当の忍耐が必要になる。
悟空はきっと、思いもしていないだろうが。
このまま抱き寄せて、自分だけのものにしてしまいたくなる時が往々にしてあるのだ。
そしてその度に、三蔵は自分の理性をフル稼働してそれを抑えている。
その境界を越えてしまう事で、何かが壊れてしまう事が怖いのかもしれない。
今の関係を持続させたいと思っているのも、確かなのだから。
目の前で安心しきったように無邪気な顔で眠る悟空。
このあからさまに無防備な顔を見て、手を出せるヤツがいるだろうか。
悟空の何にこれほど惹かれてしまったのか。
他人をこんなに愛しいと思う日が来るなんて思ってもみなかった。
守りたいものなんか、欲しくなかったのに。
いつか失くしてしまうぬくもりなんて、望んではいなかったはずなのに。
それでも、自分は手に入れてしまった。
その想いを。守りたい眼差しを。
手に入れた以上、もう手放す事など出来ない。
自分はそんなに無欲な人間にはなれない。
今は閉じられた金色の瞳。
太陽をはめこんだようなその瞳に、何時の間にか心を吸い込まれていた。
三蔵の冷たく閉ざされていた心を、まるで魔法のように溶かしてしまった。
もしも失ってしまったら、再びそれは凍り付いてしまうだろう。
永遠に溶ける事のない、氷壁で覆われてしまう。
悟空本人はおそらく分かってはいないだろう。
自分の存在が、三蔵に与えている限りない暖かさを。
悟空がいてくれる事で、三蔵がどれほど救われているのかを。
悟空との生活に慣れだした頃から、三蔵は昔の夢をあまり見なくなった。
最初は、あまりに毎日振り回される為夢を見る余裕がなくなっているのだと思った。
しかし、今はそうは思わない。
悟空の存在が、三蔵の精神安定剤的な役割をしているのだと思うようになった。
その証拠に、今でも夢自体はよく見る。
しかし、悪夢にうなされる事はほとんどなくなった。
雨が降った時などにたまに見る事はあるにせよ、格段にその回数は減った。
代わりに見るのは、何処か暖かな夢。
内容はよく憶えてはいない。
けれど、起きた時に胸の奥に微かに暖かなものが残っている気がする。
そんな時は、大抵悟空が三蔵のベッドに潜り込んでいる。
いつも悟空に単純だなどと言っているが、自分もそう変わらないのかもしれない。
悟空が隣にいるだけで、良い夢を見る事が出来るのだから。
きっと、今夜も優しい夢が見られるだろう。
END
おまけ後書き。
「月光」三蔵サマバージョンでございます。
三蔵サマがなんか偽者です……。
っていうか、短いよ、コレ!……まあ、あくまでオマケだからって事で。
ウチの三蔵サマは意気地なし(笑)なので、悟空にどうしても手が出せません。
私は実はこういう関係が好きなので、これからも2人の関係が進展するのかは謎です。