「ああ、そういえば、今日は七夕ですね」
「そういやそうだな」
八戒と悟浄が何気なく口にした言葉に、悟空が身を乗り出す。
「七夕ってあれだろ? 笹に短冊に願い事書いて飾るヤツ」
「そうですよ」
「でもさ、八戒。俺、前から気になってたんだけど」
「何です?」
「彦星とか織姫とかってよく聞くけど、結局何?」
悟空は以前から持っていた疑問を口に乗せる。
突然の質問に、八戒は目をパチクリとさせている。
だがすぐにいつも通りの表情に戻ると、ニコヤカに説明を始めた。
「それはですね、大昔の神話から来てるんですよ。
昔、彦星という牛飼いの青年と織姫という機織の女性が恋に落ちたんです。
ところが、恋に夢中になった2人は、自分の仕事を 疎かにするようになってしまったんですね。
それに怒ったとある神様が、この2人を引き離してしまいます。
天の川を隔てて離れ離れになった2人は、毎日嘆き悲しみました。
で、さすがに神様も哀れに思いまして、年に一度、7月7日だけ 天の川に橋を掛け、
2人が逢えるようにしたんだそうですよ」
八戒の説明を聞いた悟空は、ちょっと悲しそうな表情になる。
「……何か可哀想だよな。大好きな人に、年に一度しか逢えないなんて。 俺だったら、絶対そんなの……」
そう言うと、悟空は立ち上がり、パタパタと出て行ってしまった。
……数十秒後。悟空は三蔵の部屋にいた。
何だか無性に三蔵の顔が見たくなったのだ。
「なあ、三蔵。大好きな人と年一回しか逢えなかったらどうする?」
いきなり問われた質問だが、今日が何の日かは知っているため三蔵はすぐに理由に思い至った。
「八戒か悟浄に、また余計な事を教えてもらいやがったのか」
「余計な事じゃねえもん……。俺さ、思ったんだ。
もし彦星と織姫みたいに、大好きな人と年に一度しか逢えなくなったら……。
俺、ぜってえそんなのヤダよ。三蔵とずっと一緒にいたいもん」
告白めいた事をサラリと言う。
悟空にとっては『大好きな人=三蔵』は当然の事なのだろうが。
「なあ、三蔵は? 逢えなくなっても平気……?」
眉を寄せて、切なそうに三蔵を見ている。
その表情から読み取れるのは、哀しみと不安。
三蔵は何も言わず、悟空にこっちに来るように仕草だけで示す。
悟空が三蔵の方に歩いてくると、その手を取って引っ張る。
予想外の引力に、悟空は三蔵の胸に倒れこみ、抱きすくめられた。
「さ、三蔵……!?」
三蔵は悟空を抱きすくめた状態のまま、耳元で囁く。
「……平気だったら、いちいち連れ歩くか、バカ猿」
「それ……俺の事……?」
「他のヤツだと言って欲しいのか?」
「そ、そんなのヤだ!」
「だったら、自分の思いたいように思ってろ」
「うん……」
そう返事を返すと、悟空は三蔵の胸に顔を埋めた。
このぬくもりだけは手放さない。
どんな事があっても、ずっとこの人と共にありたい。
毎日を、大好きな人と一緒に過ごせますように。
END
おまけ後書き。
短い……。元々は掲示板に突発で載っけた分なので……。
去年の掲示板SSをご覧になってない方も多かろうと思って、折角の機会なので載せてみました。
既に去年ご覧になっていた方、すみません。
何だか、今年書いたものより、去年書いたこれの方がやたら甘々ですね(笑)
ま、まあ、2人の仲も間の数年で(ちょっとだけ)進展しているって事で!