昼下がり 浄三編



八戒と悟空が2人で散歩に出かけた後。

三蔵は近くの大木にもたれて座りながら、マルボロに火をつけようとした。
……しかし、どうやらガスが切れてしまったようで何度試してもつかない。
予備のライターも今は持っていない為、やむなく煙草をしまおうとした。

不意に三蔵の目の前に、火が差し出される。
わざわざ視線を向けなくても、その先にいるのが誰なのかくらいはすぐに分かる。
三蔵は黙って煙草に火を点す。

「よお、隣、座るぜ?」
そう言いながら既に三蔵のすぐ横に腰を下ろしている。
同じ疑問形でも『座っていいか?』ではなく『座るぜ?』と言う辺り、悟浄も三蔵の性格をきっちりと把握しているようだ。

悟浄もまたハイライトをポケットから取り出して咥えている。
「おい、三蔵」
呼ばれて、三蔵が悟浄の方を向くと同時に、悟浄のハイライトと三蔵のマルボロが重なる。
驚きにしばらく固まってしまっていた三蔵だったが、我に返るとすかさず懐からS&Wを取り出す。

「てめえ、何しやがんだ!」
「何って、火ィもらっただけじゃん?」
「ライター持ってんだろうが!」
「いいじゃんよ、別に〜。俺だって火、貸してやったろ?」
「頼んだ覚えはねえ! てめえが勝手に差し出したんだろう!」
「そんなにムキんなって怒るような事でもねえだろ? あ、それとも照れてんのか♪」
「……殺す!」
言うと同時に引き金が引かれる。

「どわぁっ! ちょ、ちょっと待てって!」
悟浄は何とか銃弾を避けながら叫ぶ。
こうなる事が分かっているにも関わらず、悟浄はいつも三蔵に絡んでくる。
そして、本気で照準を合わせてはいない事も、きっと分かっているのだろう。
それが、三蔵には苛立たしい。

いい加減弾の無駄遣いも飽きた為、三蔵は銃を懐にしまう。
そして、何事もなかったように再び木にもたれかかる。
正確には、何事もなかったようなフリをして。

悟浄といる時間を、不快だと思ってしまえない自分に腹が立つ。
三蔵の内心を見透かしてしまっているような、悟浄の言動がムカツク。
そして、それらを心の何処かで心地良いと感じているのを認めるのが癪でたまらない。

そんな事を考えながら、三蔵は次々と煙草を消費していく。
もちろんライターは悟浄からぶん取って。


「なあ、三蔵」
悟浄が再び三蔵を呼ぶ。
だが、さっきの事があるので今度は三蔵は振り向かなかった。
すっぱり無視してやろうと思っていたのだが。

「なっ……!」
いきなり抱き寄せられて、驚いた三蔵の口から思わず煙草が落ちる。
悟浄はそれを左手で拾って、地面に押し付けて火を消す。
当然の事ながら、右手は三蔵の肩を抱き寄せたままだ。

「……何のつもりだ!」
三蔵は怒鳴ると、その手から逃れようと腰を浮かせた。
しかし、立ち上がる前に今度は両手で抱きすくめられ、身動きが取れなくなる。

「……そんなに死にてえのか、このエロ河童が」
「そう言うなって。俺、結構マジなんだからよ」
「ふん、信憑性のカケラも……んんっ……」
言葉は最後まで続けられなかった。
自分の唇に感じた感触の意味を理解すると、三蔵は悟浄の腕の中で何とか逃れようと暴れる。
しかし、力で三蔵がかなうはずがない。

最初は優しく、そして一瞬離してから今度は深く口付ける。
逃げようとした舌を捕らえられ、貪られる。
暴れていた三蔵の身体から、次第に力が抜けていく。

長く深いキスの後、ようやく唇が離れた時には、三蔵は悟浄に完全に寄り掛かるような体勢になっていた。
口から漏れる吐息が、熱い。
頭の芯が痺れたような、そんな感覚に陥る。

そのまま最初もたれかかっていた木の幹に身体を押し付けられる。
悟浄の唇が首筋を辿り始めると、三蔵は慌てて悟浄を引き剥がそうとする。
「……止せっ……!」
「イヤだっつったら?」
「……悟空達が、戻って来たら……どうするつもりだっ……」
「大丈夫だって。アッチはアッチでよろしくやってるぜ、きっと?」
そう言うと、悟浄は再び三蔵の首筋に唇を這わせる。



本来は休憩のつもりで立ち寄ったはずなのだが、どうやら休憩どころではなくなりそうだった。






END








後書き。

ラストシーン……逃げましたv ……思わず期待した方すみません。
いや、そもそもコメディタッチでいくはずが、何故こんなヤバめな話になったのか。
……この2人の場合、プラトニックでいられるはずがありません。(キッパリ)
「昼下がり」本編の2人と違って、こちらは波風立ちまくりそうですが、私は大好きですとも!



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