優しさの条件・浄三編



「あ〜あ、暇だねえ……」
クーラーの利いた部屋でベッドに寝転がりながら、悟浄はポツリと呟く。
「ヒマヒマヒマヒマ……」
「……うるせえ! いちいち口に出すな、鬱陶しい!」
キレの良いハリセンの音が部屋の中に鳴り響く。
ここで銃弾が飛ばなかったのは、まさに今、三蔵が愛銃の点検をするためにバラしているからである。
もちろん、悟浄も銃弾が飛んでこないのを知ってて絡んでいるのである。

「だぁって、退屈なんだもんよ」
頭をさすりながら、悟浄はベッドに座り直す。
「そんなに暇なら、八戒達の買い出しを手伝うなりしてこい」
「冗談じゃねえよ、この暑いのに外なんざ出たくねーって。それにお邪魔虫になんのも嫌だし?」
『お邪魔虫』という言葉に、三蔵がピクリと反応を示す。
もちろん、どんな些細な反応であれ、悟浄が三蔵の反応を見逃すはずがない。
「おや? やっぱおとーさんとしては手塩に掛けた可愛い小猿ちゃんの恋愛は気になるわけ?」
「……貴様、そんなに死に急ぎたいか?」
とは言うものの、肝心の銃はまだ解体中なので今いち脅迫としては弱い。

悟浄が両手を上げつつも笑っている事に舌打ちして、三蔵は再び視線を銃に戻した。
「……大体、恋愛なんて言ってるレベルか、あれが」
三蔵も、悟空が八戒を好きな事は気付いているし、八戒が密かに悟空を想っている事も知っている。
だが、肝心の2人が互いの想いに気付いていない事もあり、とても恋愛と呼べるところまで至っていない。
「そりゃそうだけどよ。いいんじゃねえの、ほのぼのとしてて、アイツららしくてよ」
「……ふん」
三蔵とて、もう既に悟空が18である事は理解しているし、気にする事じゃないとは思っている。
それでも、やはり悟空が色恋沙汰に関わるようになったというのは、どこか寂しいのだろう。
三蔵本人は、絶対に認めないだろうが。

そして、そんな風に自分の感情を認めずに何でもないような振りをする三蔵が、悟浄としては結構可愛いと思ったりする。
最初にそう思った時は、自分でも頭がどうにかなったのかと思ったものである。
何しろ、傍若無人を絵に描いたような23歳の男を『可愛い』などと思ってしまったのだから当然だろう。
しかし、ある時ふとしたきっかけで三蔵への感情を自覚してしまってからは、そんな事も気にしなくなった。
開き直ってしまえば、三蔵の可愛さがどんどん目に付くのだから困ったものである。


「……何ジロジロ見てやがんだ、気持ち悪ぃ」
銃を点検する手を止めて、三蔵は悟浄を睨みつける。
その視線にすら楽しいと思ってしまう自分はかなり末期だと悟浄は思う。
「いんや……やっぱキレーだなーって思ってよ」
その言葉を聞いた瞬間、三蔵は椅子から立ち上がってベッドに座っている悟浄の傍に寄ってきた。
そして悟浄の目の前に立つと、おもむろに…………蹴った。

「いってええ! いきなり何すんだよ!?
「『何すんだよ』じゃねえ! てめえが気色悪ぃ事ほざくからだろうが!」
「だって、そう思ったんだからしょうがねえじゃねえかよ!?
「まだ言うか、貴様……」
今度はハリセンをスタンバイしながら、三蔵は悟浄を見下ろしている。

悟浄は両手を上げて、降参のポーズを取る。
「あー、分かった、悪かったって。もう言わねえから」
余りにもあっさりと引いた悟浄に不審な眼差しを送りながらも、分かればいいとばかりに三蔵は椅子に戻ろうと後ろを向いた。
そして1歩踏み出そうとしたその時。

「……な……!?
急激に引っ張られて、三蔵は後ろへと倒れ込んだ。……悟浄の腕の中へと。
「てめえ! 何の真似だ!」
悟浄に背中から抱きすくめられた状態で、三蔵は怒鳴りつける。
「んー? 悪かったから、俺なりのお詫びをしよーかなーってな」
「いらん! 手を離せ、殺すぞ!」
なおも怒鳴る三蔵の耳たぶを、悟浄は優しく甘噛みする。
「……っ!」
そのまま悟浄は身体を入れ替えて三蔵をベッドへ押し倒した。

「三蔵……」
いつも女性を痺れさせている甘い声で囁きながら、悟浄はゆっくりと顔を近付けていく。
唇が触れ合おうかという、その瞬間。


ドゴッ!


鈍い音がしたかと思うと、悟浄を撥ね退けて三蔵が立ち上がる。
「こ……このバカ河童が! いつでもどこでも欲情してんじゃねえ!」
顔を真っ赤にした三蔵に引き摺られ、悟浄は部屋の外へと放り出されてしまった。

なお、その日は悟浄は部屋に二度と入れてもらえなかったという……。







終わり。








おまけ後書き。

おまけの浄三編です。短いです。おまけなので許して下さい……。
悟浄さん……本編では格好つけてるのに、その前にはこんな目に遭ってたんですね。
三蔵様も本心では嫌がってないと思うんですけどね。何分素直じゃないので。
悟浄さんには大変な道でしょうが、頑張って頂きたいです、はい。
……ちなみに、一体悟浄さんがどこを蹴られたのかは、想像にお任せします(笑)



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