ミステリー回想編



三蔵の袂から出て来た筆・墨・硯を見て、悟空はカミサマの結界を破った時の事を思い出した。
どうして自分があんな目に遭わなければならなかったのか……。
思い出したくはないのだが、悟空の頭の中にはあの時の事がプレイバックされていた。




────カミサマの結界の前────

「悟空。お前ならば出来るかもしれん」
三蔵の一言に、悟空は目を見開いた。
三蔵が躊躇うほどの術。どんなに危険なものなのだろう。
それでも、悟空なら出来るかもしれないと言われて、正直、悟空は嬉しかった。
三蔵が、そう思ってくれる事が嬉しかった。
だから、どんなに危険な術でもやろうと思った。

「やる! 俺なら出来るかもなんだろ? だったら、やる!」
「……いいのか?」
「うん!」
どんなに危険でもいい。三蔵が期待してくれているのだ。
絶対に、どんな事でもやり遂げてみせる。

「分かった。じゃあ、お前にやってもらう」
「おう! ……で、どうしたらいいんだ?」
少し緊張しながら、三蔵に尋ねる。
ちらっと横を見ると、八戒も心持ち緊張した表情だ。


「それじゃあ、まず……」
三蔵の言葉に集中する。聞き逃さないように。
「まず……脱げ。
「…………………………え?」
今のは聞き間違いだろうか。そう思って、聞き返す。

「『え?』じゃねえ。服を脱げと言ったんだ」
「え、あの、三蔵?」
どういう事かサッパリ分からず、悟空はその場で固まってしまった。
いきなり『脱げ』なんて言われて、素直に服を脱ぐヤツなどいたら見てみたい。

悟空が硬直している横から、八戒が口を挟んだ。
「あのー、三蔵? 一体どういう事でしょうか?」
八戒も今いち三蔵の発言の意味が掴めないらしく、戸惑っている。
「どういう事も何もねえ。結界を破るんだろ、だったらさっさと脱げ、猿!」
次第に三蔵もイライラしてきたようだ。

「三蔵、ちゃんと意味を説明して下さい。どうして結界破りで服を脱ぐんです?」
「ち、面倒くせえ。……いいか、この結界を破るためには『鍵』を壊す必要がある。
 その『鍵』は当然結界の中だ。一時的に結界を通り抜けるために、身体に真言を書くんだよ」
三蔵の説明を聞いて、ようやく八戒にも納得がいったようだ。
「ああ、そういう事ですか。それじゃ、やむを得ませんね」
どうやら、どうあっても脱がなければならないらしい事を、その発言で悟空は悟った。


「……おい、分かったらさっさと脱げ。時間がもったいねえ」
「う、うん……」
理由は分かった。分かったのだが。
普段着替える時ならともかく、三蔵と八戒が注目している中でおもむろに服を脱ぐのは非常に恥ずかしい。
別に、男同士なのだから恥ずかしがる必要はないと分かっていても、気分の問題である。

なかなか脱ごうとしない悟空に、三蔵もだんだんイラつきを見せ始めた。
「何を今更恥ずかしがってやがる。……いい加減にしねえと、無理矢理脱がすぞ、てめえ」
その言葉に、ビクっと身体を竦ませ、慌てて悟空は服に手をかけ始めた。

「さ、三蔵……。今の発言はかなり危険だと思うんですが」
「うるせえ。このまま待ってたら日が暮れちまうだろうが」
「それはそうなんですが……」
気の短い三蔵は既にかなり苛立っていて、自分の発言のヤバさに今いち気付いていないようだ。


悟空は服を脱ぎながら、心の中でため息をついていた。
どうしてこんな事になっているのだろう。
何だか妙に自分が情けなく思えてきて、その次には腹が立ってきた。
大体、どうしてこれが『自分にしか出来ない』のだろう。
別に自分じゃなくても、三蔵や八戒でもいいだろうに。

そんな風に落ち込んだり腹を立てたりしている内に、服をあらかた脱ぎ終わる。
「……脱いだけど」
「よし。なら、真言を書く。じっとしてろよ」
そう言いながら、三蔵は何時の間に用意していたのか、墨をつけた筆を持って悟空に近付いた。

三蔵の筆が、悟空の肌の上を滑るようにして真言を記していく。
「……ちょ……、さ、三蔵……! すっげえ、くすぐったいんだけどっ……!」
「我慢しろ」
「我慢しろったって……!」
何しろ素肌の上に直接文字を書かれているのだ。くすぐったい事この上ない。
ハタから見ると、非常───にイヤラしい光景であるのだが、当人達はそれどころではないようだ。

上半身から、徐々に筆が下に下りていく。
「さ、三蔵!? そんなトコまで書くの!?
「当たり前だ。じゃねえと、結界を抜けられねえだろう」
「で、でもさぁ……」
「うるせえ、いいから黙って立ってろ」
話してる間にも、三蔵は筆を止めない。
黙って立ってろと言われても、悟空としてはその場に座り込みたいくらいである。



ひたすらくすぐったさに耐えつつその場に立っている間、悟空が考えていたことといえば。

……悟浄見つけたら、まずぶん殴る……!……であったという。







えんど。








おまけ後書き。

何だか微妙に裏ちっくなフレーズがちらほら出て来るおまけです(笑)
いえ、原作のこのシーン読んだ時から妄想はしてたんですよ。
今まで書く機会がなかったのですが、とうとう今回書いてしまいました。
お気に入りのセリフは「無理矢理脱がすぞ、てめえ」。……これ、言わせたかったんです。(コラ)
書いてる間中、楽しくて楽しくて仕方ありませんでしたv
まあ、たまにはこんなものもあり、という事で逃げます。ダーッシュ!


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