金色の輝きと出逢ってから三日。
悟空はずっと、金蝉や天蓬や捲簾がとても心配するくらいぼーっとしておりました。
食事の量もめっきり減り、ふらふらと出掛けては遠くを眺めておりました。
もちろん、悟空が出掛けた場所は三蔵と出逢った場所でございます。
ですが、当然そこに三蔵の姿はありません。
悟空はその場所に立ち、あの時の事を思い出してはため息をついておりました。
そんな折、金蝉と悟空の家に帝からの使者がやって参りました。
その使者が言うには、帝がかぐや姫───つまりは悟空を所望していると言うのです。
これは、女性にとってはこれ以上ないほどの名誉とも言えました。
何といっても、帝から、しかも今まで全く女性との噂の一つもないあの帝から声がかかったのですから。
帝の正室になれる可能性は極めて高いと言えましょう。
「もし、かぐや姫が宮中に上がれば、父君たる金蝉様にも位が授けられましょうぞ」
その使者は、止めておけばいいのに余計な事をうっかり言ってしまいました。
それでは、『位のために娘を売れ』と言っているも同然です。
案の定、金蝉は眉を顰めると、使者に向かって言い放ちました。
「俺は悟空を出世の道具にする気はねえ。さっさと帰れ!」
その金蝉の迫力に気圧された使者は、逃げるようにして帰っていきました。
「……金蝉……」
悟空は障子を開け、不安そうな瞳で顔を覗かせました。
それを見て金蝉は、悟空の頭をそっと撫でてやりました。
「心配しなくていい。お前をあんな権力にとりつかれたバカ共の巣窟にやる気はねえよ。
ただ、お前が行きたいと言うなら、考えない事もないが……」
「俺、別に都になんて行きたくない。ここで金蝉と一緒に暮らしてる方がいいもん」
笑って言った悟空に、金蝉は少し安心したような表情になりました。
「そうか。なら、使者なんざ俺が追い払ってやる。お前はいつも通りにしてろ」
「うん。分かった」
悟空は頷くと、簡単な格好に着替えて薪を拾いに出かけました。
悟空は森の中を歩いて薪を集めながら、先ほどの使者の事をぼんやりと思い出しておりました。
「帝かぁ……。何でそんな人が俺を呼んでるんだろ?」
疑問が自然に口から零れます。
そう、悟空は『帝=三蔵』である事を知らないのです。
あの夜、三蔵は自分が帝である事は告げていないのですから当然です。
にも関わらず、あんな使者を送ったのは三蔵のフライングもいいところでございます。
どうやら三蔵も悟空を想う余り、判断力が鈍ってしまっている模様です。
ともかく、悟空は帝が自分を求めている理由もまるで分からないまま、首を捻っておりました。
一方その頃。
宮中におきましては、使者の報告を受けた三蔵は今更ながら自分のミスに気付いておりました。
とりあえずその使者をクビにして退出させると、三蔵はしばし思考に沈みました。
あの夜は、ある意味お忍びの外出だったために悟空を見付からぬように逃がしました。
だが、そうそう諦められるものではありません。
いくら身分が低くても、一旦『正室』として迎えてしまえば、三蔵には誰にも文句を言わせない自信があります。
愛人という噂が立つからこそ、スキャンダルになるのです。
それが正室であるならば、問題はありません。
もちろん、身分の低い悟空が帝の正室になるなど大貴族どもは黙っていないでしょうが、手続きさえ踏んでしまえばこちらのものです。
それに、正室になれば、かぐや姫の美しさなら貴族達をも黙らせられるでしょう。
何しろ、貴族達が献上してきた美姫達の誰もがかの姫の美しさには敵わないのですから。
その思惑のもと、三蔵は悟空の養父たる金蝉の元に使者を送ったのですが、あえなく失敗に終わりました。
使者が余計な事を言ったという点を差し引いても、悟空が帝が三蔵である事を知らなければ結果は同じでしょう。
三蔵は、悟空に文でもしたためて届けさせようかと考えました。
あの出逢いの事を記せば、悟空とてその文を信じるでしょう。
しかし、そこで使者が言っていた『金蝉は娘であるかぐや姫を溺愛しているようだ』という情報に思い至りました。
だとすると、使者が文を直接悟空に手渡せる可能性は低いでしょう。
もしも、悟空に渡る前に金蝉に破棄などされれば意味がありません。
しばし考えた後、三蔵は誰にも聞こえない程度の声でポツリと呟きました。
「……直接逢うのが一番確実か……」
そう、それが一番確実ではあるのです。
しかし、三蔵は帝です。様々な公務でそれはそれは忙しい日々を送っているのです。
口で言うほど簡単に、ほいほいと遥か遠く悟空の家まで行けるものではありません。
「……八百鼡」
三蔵が顔を上げて呼ぶと、少し離れた所に控えていた八百鼡が近付いて参りました。
「何でしょう、三蔵様」
「スケジュールの都合はつくか」
この一言で、八百鼡は三蔵の言わんとしている事を察しました。
三蔵の側近として長く仕えているだけあって、八百鼡の有能さは密かに宮中でも有名なのです。
「二週間後でしたら、三日空けてみせます。それまでに、その旨を誰かに伝えに行かせてはいかがでしょうか」
「……そうだな。なら、それはお前が行け」
「私がですか? ですが、三蔵様のお世話は……」
「身の回りの世話くらいなら葉にでもさせる。お前が行くのが一番確実だ」
「分かりました。では早速、明日にでも行って参ります」
「ああ、細かい事は任せる」
その三蔵の言葉に八百鼡は再び返事をすると、一礼をして部屋を出て行きました。
スケジュールの調整と、明日の準備に入ったのでしょう。
普段は何かと口煩い八百鼡ですが、こういう時には非常にきびきび動いてくれるので三蔵としても助かります。
二週間後に逢える。その日を思い、三蔵は窓の外を眺めておりました。
そして、二週間後。
三蔵は悟空の住む家へ向かっておりました。
今回は八百鼡の計らいで、八百鼡を含め三蔵に好意的な侍従達だけを伴っております。
こうして向かっている間にも、三蔵はあの日の姫の姿を思い返しておりました。
初めて心奪われた存在。
必ず、必ず連れ帰ってみせると、決意を新たにする三蔵でありました。
目的地である家に到着すると、家の前には肩までの髪の柔和な笑顔の青年が立っておりました。
「お待ちしておりました。悟空は中です。どうぞお入り下さい」
帝を目の前にしているというのに全く物怖じせずに、にっこりと笑って招き入れます。
三蔵は一瞬この青年が『金蝉』かと思いましたが、八百鼡に聞いたイメージとは異なります。
『金蝉』でないなら、悟空を呼び捨てにするこの青年は誰なのか、三蔵は少し気になりました。
「……お前は?」
「ああ、申し遅れました。僕は天蓬と申します。悟空の養父である金蝉の友人ですよ」
その友人が何故ここにいるのか、そう問おうかとも思いましたが、三蔵としては一刻も早く悟空に逢いたい気持ちの方が先に立ちます。
故に、敢えて詮索はせずに天蓬の後に続いて家の中に入っていきました。
家が広くないため、三蔵は八百鼡と独角以外の従者は家の外に待機させました。
そして、天蓬が促すまま、三蔵が奥の部屋へと足を踏み入れると……そこには、あの夜に見たままの美しい姫が座っていたのです。
帝との会見に正直気が進まなかった悟空ですが、障子の向こうから現れた存在に思わずその場で立ち上がってしまいました。
「さ、三蔵……!? どうして……!?」
「帝が逢いに来る」という事しか知らなかった悟空は、心底驚きました。
あの夜以来、ずっとずっと逢いたくて仕方のなかった人が目の前にいるのです。
悟空は一瞬幻かと何度か目を擦りましたが、間違いなくそこにいるのは三蔵その人です。
そして、そんな悟空の反応に一番驚いたのは金蝉でした。
天蓬や捲簾も意外そうな顔で見ておりますが、金蝉はその場で悟空を凝視しています。
まさか、悟空が帝と面識があるなどとは思いもしていなかったのでしょう。
単に、かぐや姫の噂を聞きつけた帝が一方的に悟空を求めていると思っていたのですから。
「……悟空、逢った事があるのか? ……一体、いつ……?」
そこまで言って、金蝉は悟空が夜中に抜け出した時の事を思い出しました。
そういえば、翌朝から悟空の様子はずっと変でした。
それが、この帝に出逢ったせいであるとしたら……。
金蝉が三蔵に視線を向けると同時に、三蔵は金蝉と悟空の前に歩み寄り、用意されていた座布団の上に座りました。
「……お初にお目にかかる、金蝉どの。玄奘三蔵と申す」
帝が一介の竹取に対する言葉遣いではありませんが、そこはやはり愛しい姫の親御。
姫を貰い受けるためにも礼を失してはならぬという、プライドの高い三蔵の精一杯の譲歩でございました。
「……ご丁寧なご挨拶、いたみいります、三蔵様」
と、金蝉の方も相手が帝という事もあり、出来うる限りの口調で答えます。
しかし、三蔵も金蝉も、相手を見た瞬間に思った事は同じでした。
『気に食わねえ』
全く同じタイミングでそう思い、何故かは分からぬその悪印象を何とか押し隠しておりました。
そして本心が出る前に話を済ませてしまおうと、三蔵は金蝉に改めて向かい合います。
「……金蝉どの。もう既に察しておられるとは思うが、そなたの娘御……悟空どのを、是非私の后としてお迎えしたい」
回りくどい表現はせずに、三蔵は今回の一番の目的をスパッと切り出しました。
金蝉や天蓬などはその申し出は予想通りだったのですが、それに驚きの表情を見せたのは悟空でした。
「お、俺を……三蔵の、后……に……?」
信じられないといった風に、悟空はひたすら大きな瞳を更に見開かせています。
悟空はまさか、三蔵が自分をそんな風に思ってくれているとは思っていなかったのです。
その頬は紅く染まり、悟空がどれほど動揺しているかが分かります。
そんな悟空の様子を見た金蝉は、表情を曇らせました。
5人の求婚者のどんな言葉にも、驚きはしてもこんな風に赤くなったりはしなかったのです。
それは、悟空の心が少なからず三蔵に向いている事を示しています。
ですが、金蝉としては例え帝とは言え、目の前の男に悟空をやりたくなどないのです。
何故かと問われれば、金蝉も上手くは答えられません。
しかし、どうもこの三蔵という男を前にすると、金蝉はイライラしてくるのです。
三蔵にやるくらいなら、いっそ先の求婚者の紅孩児やの方がまだマシというものです。
金蝉は深く息を吸い込むと、ゆっくりと吐き、三蔵に向かって言いました。
「三蔵様。お話は分かりました。しかし、これは悟空にとっても一生の問題。
そう易々と答えを出せるものではございません」
「それは承知している。故に、悟空どののお気持ちもお訊きしたく、こうして直接参った次第」
三蔵はそう言って、悟空の方に視線を向けました。
当の悟空は、三蔵と目が合った瞬間、真っ赤になって俯いてしまいました。
「お、俺は……」
部屋にいる全ての人間の視線が、悟空だけに集められています。
「き、后とか、そういうのはよく……分からない……けど……」
腿の辺りの着物をぎゅっと握りしめながら、悟空はしどろもどろに話します。
「でも……あの、今日だけじゃなくてまた……三蔵と逢いたい……」
その言葉を聞いた三蔵と金蝉の表情は、面白いほどに正反対でありました。
悟空の言葉を聞いた金蝉は、心の中で深いため息をつきました。
どうやら、悟空はすっかり三蔵に騙されて……もとい、心を奪われてしまっているようだ、と。
こうなると、状況は金蝉に圧倒的に不利でございます。
唯一三蔵に対抗できそうな天蓬も、何故かずっと黙ったままです。
天蓬が、相手が帝だからといって臆する人間ではないと知っているだけに、金蝉はそれが不思議でした。
あの5人の求婚者の時にはあんな無茶な条件を出してまで退けたですから、金蝉の疑問は至極当然の事と言えましょう。
ちょうどその頃。天蓬の頭の中には 玉の輿 という言葉が浮かんでおりました。
悟空が帝の正室になれば、それは悟空にとって決して不幸な事ではないのではないかと思ったのです。
帝といえば、この国の最高権力者です。当然、その経済力はケタ違いです。
家計に占める食費の割合を心配する事もなくなるし、もっと綺麗な着物を着て、何不自由ない暮らしが出来るのです。
もちろん、悟空の気持ちを無視してそんな事を考えるほど天蓬はバカではありません。
しかし、先程からの様子を見ていると、悟空は三蔵を憎からず想っているのは明らかです。
それに三蔵の方も、今まで女性との噂一つなかった上、おそらく周りからの反対もある中で敢えて身分の低い悟空を求めているのですから、この悟空への求婚は本気なのでしょう。
お互い想い合っているのなら、この話は悟空への幸せへの道のような気がしたのです。
ですが、天蓬にも一つ懸念がありました。それを確認すべく、座ったまま一歩前に出ます。
「……三蔵様。横から失礼致します。
実は、悟空を赤子の頃より見守ってきた一人として三蔵様にお伺い致したい事があるのです」
「聞こう」
「ありがとうございます。……正直、私どもは帝たる三蔵様のところへ悟空が嫁ぐ事によって、悟空が宮中の権力争いに巻き込まれたりしないものか心配でならないのです」
天蓬は一瞬だけ悟空に視線を向けると、再び三蔵に視線を戻しました。
「悟空は、私ども……特に金蝉にとってはとてもとても大切な娘です。
その悟空が危険な目に遭う事だけは我慢ならないのです。
恐れながら、宮中には悟空が三蔵様の正室になる事を望まぬ輩もいるのではありませんか?」
その天蓬の言葉を聞いて、三蔵の表情が僅かに変わりました。
それは、三蔵自身も考えた事だからです。
「……天蓬どの。そなたの言いたい事は分かる。私とて悟空どのの身に危険が及ぶ事は何より許せぬ事。
悟空どのは、私が全てを賭けて守る事を約束しよう」
そう言うと、三蔵は悟空の方を見ました。
その悟空はと言いますと、今の言葉にただただ目を見開いております。
白い頬が紅潮しているように見えるのは気のせいではないでしょう。
天蓬は、先程の言葉を口にした時の三蔵の表情が本気である事を感じました。
「……分かりました。三蔵様が真剣に考えておられるなら、私から申し上げる事はもうありません」
そう言うと、天蓬は頭を下げて後ろへ下がりました。
天蓬が下がったのを確認すると、三蔵は金蝉に向いて再び口を開きました。
「……金蝉どの。悟空どのを后に迎えたい、幸せにしたいという気持ちに嘘はない。
この想いを認め、許しを頂けないだろうか」
三蔵をよく知る者からすれば信じられないくらいの謙虚さで、三蔵は金蝉に対しています。
後ろに控えている八百鼡と独角は、珍しいものでも見る目で三蔵を見つめております。
そして同時に二人は、例え許しを貰えなくても三蔵は悟空を攫っていくだろうと予測しておりました。
実際、三蔵自身もそのつもりだったのですから、さすが三蔵の側近だけの事はあります。
金蝉は暫く難しい顔をしておりましたが、ふと三蔵から視線を外し、悟空を見ました。
悟空が三蔵に心を奪われている事も、三蔵が悟空を本気で求めている事も、金蝉は分かっているのです。
ですが、分かっていても可愛い娘を手放したくないのが男親というもの。
血こそ繋がってはおりませんが、金蝉にとってはかけがえのない娘なのです。
そして、かけがえのない娘であるが故に、その幸せを願うのも当然の事。
目の前の三蔵という男が、いくら気に入らない相手であったとしても。
悟空の幸せ、それが三蔵と共にあるというなら、金蝉も頷くしかなくなってしまうのです。
「……三蔵様。全ては悟空が決める事。悟空が望む事であるなら、私も受け入れましょう」
内心を抑え、金蝉は出来るだけ穏やかに言いました。
そうして、視線はまたも悟空に集められました。
当の悟空は、急に視線が集まった事に戸惑い、おろおろとしておりました。
「……えっと……あの、俺は……」
困っている悟空の様子を見かねたのでしょう。捲簾が初めて口を開きました。
「こんなに大勢の人間が見てたら言いにくいだろ。三蔵様と二人で話させてやったらどうだ?」
「しかし……」
金蝉が難色を示すのを見て、天蓬が重ねて言います。
「そうですね。その方が話しやすいでしょうし。僕らは隣の部屋に行ってましょう。ね、金蝉?」
「……分かった」
気が進まない様子を見せるものの、金蝉は頷き、八百鼡達も伴って隣の部屋に移りました。
そして、部屋の中には三蔵と悟空だけが残りました。
三蔵は悟空に近付くと、先程までとはまるで違う優しい表情になりました。
「……悟空。あの夜以来だな」
「三蔵……。信じらんないよ。俺、また逢えるなんて……思ってなかったから……」
「それは、俺に逢いたかったと受け取っていいのか?」
そう訊くと、悟空の顔が見る見るうちに赤くなっていきます。
分かりやすい変化に、三蔵は微かに笑いました。
「……うん、逢いたかった。逢いたくて、どうにかなっちゃいそうで……」
「悟空、俺の后になれ。……そうすれば、いつでも一緒にいられるだろ?」
言うと、三蔵は悟空を引き寄せて抱きしめました。
悟空は暫くの間、大人しく三蔵の腕の中に収まってましたが、ふと何かに気付いたように三蔵を押し返しました。
「……悟空?」
見ると、悟空はとても切ないような痛いような表情をしておりました。
「ダメだよ。まだダメなんだ。……俺が三蔵と一緒に行っちゃったら、金蝉は……」
「子はいずれ親元を離れていくものだ。それは当然の事だろう」
「分かってる。でも、もうちょっとだけ、もうちょっとだけ金蝉の傍にいたいんだ……!
今、金蝉を一人で置いて行ったら……俺、絶対幸せになれないよ……!」
今まで、あんなに愛して、慈しんでくれたのに。
こんなに急に、突然悟空がいなくなってしまったら、金蝉が悲しむのが悟空には分かるのです。
せめて、せめてもう少し、一緒の時を過ごしたいと思うのは悟空の我侭なのでしょうか。
泣きそうになりながら、悟空は震えた手で三蔵の胸の辺りの着物を掴んでおります。
三蔵はそんな悟空の様子を見て、現時点での説得は無理だろうと判断しました。
悟空の背に優しく包むように腕を回し、三蔵は出来るだけ優しい声音で言いました。
「……分かった。なら、今すぐとは言わねえ。暫くはここで暮らせばいい。
だがいつか、もう大丈夫だと思った時は……俺のところに后として来てくれ」
「うん……。俺も三蔵の后になりたい……。ちょっとだけ、待っててくれる……?」
「ああ。待っててやる。だから、必ず来い。いいな」
「うん。ありがとう、三蔵」
そう言うと、悟空は抱きしめられたまま顔を上げ、花のような笑顔を見せました。
その笑顔に引き寄せられ、三蔵はそっと悟空の唇に淡い口付けを落としました。
「さ、三蔵……?」
「俺とお前の約束。その『証』だ」
三蔵が都に帰れば、また暫くは逢えない事は明らかです。
その逢えない間の分を身体に刻み込んでおくかのように、二人は抱きしめ合ったまま、互いのぬくもりを感じておりました。