スイート・ホワイト




3月14日。
世に言う、ホワイトデーである。
三蔵もそれくらいの事は知っている。
だが周りの環境や興味が無いという事もあり、三蔵にとってはそんな行事などバレンタインと同じように関係無かった。
少なくとも、3年前までは。

そう、3年前までは悟空も知らなかったのだ。バレンタインも、ホワイトデーも。
だからいつも何の変哲も無い日だった。
しかし、悟浄と八戒が余計な入れ知恵をしたらしく、3年前のバレンタインに悟空がチョコを贈ってきた。
それからは毎年、悟空は三蔵にチョコレートをプレゼントするようになった。
しかも八戒に教わって手作りのものを贈ってくるので、さすがに三蔵も何もしないわけにはいかず、結局は三蔵も毎年律儀にお返しをしてしまっている。

そして今年。
今年のバレンタインにも悟空は三蔵にチョコをプレゼントした。
正直、三蔵も悟空からのチョコが嬉しくない訳ではないから素直に受け取った。
お返しを買いに行くのは面倒だが、渡さなければ悟空が妙な誤解をして落ち込みかねない。
「……ちっ、仕方ねえか」
三蔵は静かに立ち上がると、カードを持って街へと出掛けた。

スイート・ホワイト八戒編


宿に戻ると、入り口を入った所で八戒に出くわした。
「おや、三蔵。どこ行ってたんです?」
「街に決まってんだろうが」
「はは、まあそれはそうですけど」
八戒のにこやかな顔の中にに少し鋭いものを感じたのは、三蔵の気のせいだろうか。
「……悟空が部屋でずっとおとなしく待ってますよ。かわいいですね」
「……ふん、あの猿のどこがかわいいんだか」
三蔵はそう言い捨てて、宿の階段を上っていった。

八戒八つ当たり編


悟空の部屋の前につくと、ドアをノックする。
いつも悟空にはノックをするように言ってある手前、相手が悟空でも一応ノックはする事にしている。

「……三蔵?」
「ああ、入るぞ」
そう言ってドアを開けると、悟空がテーブルのそばに立っていた。
「何突っ立ってんだ」
「へへ、何かじっとしてるの苦手だからさ」
要するに、三蔵が来るのを待つ間部屋中をぐるぐる歩き回っていたのだろう。

ふと、テーブルの上に綺麗にラッピングされた包みがあるのに気付く。
「……おい、これは?」
「あ、それは八戒がくれたんだ。バレンタインのお返しにって」
「……ふん、やっぱりな」
三蔵が小さく呟く。
「え、何?」
「何でもねえよ」
三蔵とて、八戒の悟空への想いは気付いている。
だが、いくら八戒でもコイツだけは絶対に渡す訳にはいかない。
だから、気付いていないフリをしている。
八戒もその事は分かっているかもしれないが、気付かれたくないと思っているのも事実だろう。

「開けねえのか」
八戒のお返しを指しながら聞いてみる。
「うん、一番に開けたいから……三蔵の」
そう言った悟空の頬は少し紅く色づいている。
その一言に嬉しいと感じてしまう自分がいる。それは認めざるをえない。
三蔵は微かに笑みを浮かべると、悟空に買ってきたものを渡す。
「開けるんだろ、一番に」
「うん!」
悟空は心底嬉しそうに、丁寧に包装を外していく。

包装を外してみると、中にあったのは色とりどりのマシュマロだった。
「うわ、いろんな色あって綺麗だな。……三蔵みたいだ」
「? 何だそれは」
いきなり何を言い出すのかと思い、三蔵は怪訝な顔をする。

「三蔵の瞳って紫だけどさ、その時その時で色が変わるんだ」
「瞳の色が変わるわけねえだろ」
「ううん、変わるんだよ。厳しい色、優しい色、寂しい色……」
三蔵にもようやく意味が分かった。
……悟空が言いたいのは瞳の色というよりは、眼差しの色なのだろう。

「じゃあ、今はどんな色だ」
悟空の瞳を覗き込みながら、三蔵が問い掛ける。
「今は……すっごくあったかい色」
「……そうか」
言いながら三蔵は右手で悟空の腰を引き寄せ、左手で悟空の頬に手を添える。

「さ、さんぞ?」
悟空が少しうろたえたように三蔵の名を呼ぶ。
「……目ぇ閉じてろ」
「……うん」
素直に目を閉じた悟空の唇に、一度左手の親指を微かに滑らせてからゆっくりと自分の唇を重ねる。

優しい、キス。
触れるだけのキスを、何度も繰り返す。

唇が離れると、悟空は顔を真っ赤にして俯いてしまった。
当然だろう。悟空にキスなんてしたのは初めてなのだから。
三蔵自身、よく今まで何もせずにいられたものだと思わないでもない。
ただ、悟空の純粋さに、罪悪感のようなものを感じていたのだ。
穢してしまう事への、罪悪感。

だが、さっき悟空が自分を見上げた時、その表情に吸い寄せられるように口付けてしまっていた。
他愛も無い、挨拶程度のキスではあるが……。

「……悟空」
三蔵が名前を呼ぶと、悟空はパッと顔を上げる。
その顔は、未だに真っ赤に染まったままだ。
「イヤだったなら言え。もうしねえから」
「ううん、イヤじゃ……ない……」
「……本当か?」
「うん。だって俺……三蔵の事好きだもん。三蔵以外にされたらヤだけど」
「当たり前だ。他の奴にさせるか、こんな事」
三蔵は悟空を再び引き寄せて、抱きしめる。

三蔵の腕の中に収まったまま、顔だけ上げて悟空が笑う。
「……なあ、三蔵」
「何だ」
「……ありがと」
「……ふん……」
三蔵は悟空の頭を掴んで、再び自分の胸に顔を埋めさせる。
今の表情を、見られたくなかった。
こんな、自分らしくなく柔らかくなった表情なんて。

悟空を抱きしめたまま、三蔵に抱きしめられたまま、静かに時が刻まれていく。
何よりも優しく、暖かい時間。
これこそが互いに贈った、一番の贈り物なのかもしれない。






END








後書き。

ホワイトデーと言う事で甘く!甘く!をテーマに書き上げました。
バレンタイン小説が無いのでちょっと最初説明的な部分が目立ちますが。
バレンタインの時には、このサイトなかったですから……。
しかし、自分で書いてて砂吐きそうだったんですが。どうでしょう、この甘さ。
私的には精一杯甘くしてみたつもりなんですが……甘くなってますか?
そして、もはや恒例と化しつつある(笑)おまけモード。
……八戒ファンの方、怒らないで下さい(ビクビク)
ちなみに今回に限り、こっそりともう1つおまけが隠れてあります。





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